四輪駆動車のエンジン搭載位置別トラクション

さて、では次のステップです。

四輪駆動車であっても、以前書いたようにフロントエンジンの車だけでなく、ランボルギーニの様にMRベースの四輪駆動車、ポルシェの用にRRベースの四輪駆動車などもあります。

ではタイヤの性能などの条件が同じとすると、どのレイアウトの四輪駆動車が一番トラクションが高いでしょうか？　
これがサクッと答えられる方は、かなり成長しているはずですね。　
ヒントとして、ブレーキの項を読むとすぐに分かるでしょう。

加速は減速と正反対の運動ですね。ブレーキは駆動方式にかかわらず、四輪に効かせます。
そして同様に四輪駆動車は四輪を使って加速するため、完全にブレーキング時の運動と対称となるのです。
ブレーキングに有利なレイアウトは、MRやRRでしたね？

同様にして、加速時に最もトラクションが掛けられるレイアウトは、フロントエンジンのレイアウトなのです。
理由は言うまでもなく、フロントが重い車体は加速時に荷重移動により、前後のタイヤに均等に荷重がかかりやすくなるからです（図2）。つまり、タイヤのグリップの線形部分を、四輪の全てが使って加速できるためですね。

図2　加速時の荷重移動

とっても簡単に導ける答えでしたが、MRやRRベースの四駆のほうが漠然とトラクションが高いと思っていた人、いませんか？？

簡単に言えば、リアにエンジンが載っている車体は、加速時に前輪に載る荷重が少ないため、フロントタイヤではトラクションをほとんど掛けられなくなるのです。ブレーキングには後ろが重いレイアウトは有利なんですがね……。
よって、四輪駆動車ではフロントエンジンレイアウトがトラクションに有利であることがわかったと思います。

では次に、四輪駆動車のコーナリングについて考えてみましょう。

はじめに、例えば最大の遠心力に対向する操作に書いたような、加減速をしないバランススロットルを使ったコーナリングをするケースを考えるとどうでしょうか？
天性の素質を持つMRとRRレイアウトその2に書いた通り、リアエンジンの車はバランススロットルを使って曲がると重量バランスが勝手にヨーを作ってくれるため、タイヤの全グリップを遠心力に対抗する力に使えるため、極めて優れていましたね。

しかしながらフロントエンジンの四輪駆動車は、加速していなければ、FFやFR車と理論的に全く同じ挙動となるはずです。
もちろんここでは、四輪駆動車のセンターデフからくるブレーキング現象は考慮しないとします。
詳しくはデフの項を見て下さいね。

そして普通、四輪駆動車はFF車よりも多少前後重量バランスが良く、FR車より悪くなっています。
よって加速も減速もしていなければ、つまりタイヤに縦方向の力が掛かっていなければ、まあFFに近い挙動になりそうですね。
つまりフロントが重いためにヨーが戻る力が掛かるし、タイヤに対する荷重もフロント寄りで、フロントタイヤのμが線形領域から先に外れ、その時のリアのグリップはまだ余っています。
このFF車同様の特性により、アンダーステアが強くなるでしょう。

更にそれに加えて四駆にはセンターデフの項に書いたタイトコーナーブレーキング現象がありますよねぇ……。
このダブルパンチで、相当アンダーステア特性が強くなるはずです。
こんなものがどうしてMRよりも速く曲がれるのでしょうか？？

はい。普通のバランススロットルで曲がるケースでは、恐らくコーナリング速度はMRやFR車と比べて速くはないでしょう。
更にタイトコーナーブレーキング現象まで考慮すれば、電子制御が無ければFF車よりも遅いでしょうねぇ。
だから昔から、四駆は曲がらない、四駆はコーナーが苦手などと言われていたわけです。
サスペンションのデフの項に書いたように、電子制御の進化もそれを解決するためのものでしたね。

ではどうしたら素の四駆が速く曲がれるのか？
さて、ここで出てくるのが“トラクションステア”です。
これについては、本気で速くなりたい人へ…の第3の曲げる力、第3の曲げる力新型GT-Rはなぜ速いのか？編に詳しく書いてあるので、そちらを見て下さいね。

トラクションステアとは、一言で言うとタイヤを縦に少し滑らせることで、タイヤの縦方向の摩擦係数μを上げ、その縦グリップを曲がる力（ヨーを作る力や遠心力に対抗する力）として使う技術です。
FFとFR車については本気で速くなりたい人へ…の方に書きましたね。
そちらでも述べている通り、また動画放送でも言った通り、トラクションステアを最大に発揮できるレイアウトは、当然ながら四輪駆動車です。 MRも、RRでさえ四輪駆動車には勝てません。理由は上記の加速時のトラクションの理由と全く同じです。
四輪によるトラクションステアを使うことが出来れば、車体が出せる最大Gはリミットであったはずのμ[G]を超えられることになります。

さて、更に次のステップです。

では実際に出来るかどうかは置いておいて、始めに理論的なことを考えてみましょう。
もしも四輪駆動車の四輪を使ったトラクションステアによるコーナリングが出来るとしたなら、エンジンはどこに乗っているのが理想でしょうか？

難しくないと思うので、考えておいて下さいねっ。

続く……。

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