ポルシェのブレーキは、なぜ良く止まるのか?


さて、次に少し具体的な例を出してみましょうか。

世界にその制動性能を誇るポルシェ911シリーズ。(いわゆる、RRのポルシェ。RRとは、リアエンジン、リアドライブの略)
そのブレーキ性能には、定評が有りますね。

車重と荷重とグリップの関係」の項と、今までのブレーキの項を読めば、ポルシェのブレーキ性能の秘密が大体分かってくると思いますので、ちょっとまた出題してみます(笑)。

ポルシェ911が短い制動距離で止まれるのはなぜでしょう?
ちょっとポルシェの特徴を書いてみますので、考えてみてください。

1、カーボン配合の、セラミックコンポジットブレーキローター(PCCB)とポルシェ製キャリパーによる強烈なブレーキ性能のため。
2、リアタイヤが極太のため。
3、リアエンジンの為。

さて、分かりましたか?
では答えに行ってみます。

1は、どちらかと言うと、長時間安定してブレーキが効くようにするものでしょう。
PCCBローターは、耐フェード性が高いし、多ピストンのビックキャリパーはコントロール性が良さそうですね。
しかしブレーキと言うのは、タイヤをロックさせられるだけの力が有ればいいのです。他の車でも、ロックさせること自体は容易ですね。よって、もしポルシェと同じブレーキシステムを他の車に付けても、制動距離は変わらないでしょう。
よって、制動距離の短さという観点で言うと、関係ないですね。

2もポルシェの特徴ですね。しかし、これも例えばフロントエンジンの車のリアに太いタイヤを付けても、恐らく制動距離はあまり変わらないでしょう。 いくらタイヤが太くても、荷重を載せられなければ摩擦力は小さいので意味が無いですね。
(式は載せませんが、いいですよね?)

3はポルシェが他の車と違う一番の特徴ですね。
エンジンの搭載位置だけは、キャリパーやタイヤのように、他の車でポンと変える事が出来ません。
もう分かったと思いますが、ポルシェ911はリアにエンジンが有るため、静止状態でリアの重量配分が非常に重くなっています。
と言う事は、フルブレーキ時には荷重が前に移動し、前輪にも後輪にもバランス良く荷重を載せられると言う事です。

車重と荷重とグリップの関係」の項と、ブレーキの項を理解できれば、答えは3だと分かるはずです。

車重と荷重とグリップの関係」 に書いた通り、タイヤの線形領域を飛び出さないように荷重を乗せるには、4輪に均等に乗せるのが一番良かったですね。 後ろにエンジンが有る車は、ブレーキング時にそれが非常にやりやすいのです。
実際に、フルブレーキング時に前後重量配分が、50:50になるのか、40:60位なのかは知りませんが、理想は後ろの方が重量配分が若干重めだと思います。
つまり、50:50 よりも40:60 って感じです。

理由は簡単で、リアタイヤの方が太いからです。太いタイヤの方がグリップの線形領域が広かったですよね?
勿論、リアタイヤが太いのは元々はトラクションを稼ぐ事が目的でしょうが、それがブレーキング時にも貢献している訳です。
つまり、後輪でも大きな制動力を生んでいる訳ですね。

逆に、一番ブレーキングに不利なレイアウトは、フロントの重量配分が一番大きい、FFだと言うことも分かりますね。(車重が同じだとして)
フルブレーキング時には、ただでさえ前が重いのに、より前荷重となるので、わかりやすく言うと実質前輪だけで止めているような状態になりますから。
実際に、FF車のリアブレーキと、フロントブレーキを見比べると一目瞭然だと思います。
フロントに比べると、リアブレーキが極端にプアだと思います。 (ローターが小さかったり、キャリパーが小さかったり、ローターがソリッドディスクだったり、ドラムブレーキだったり)

よって、ブレーキ性能だけに関して言えば、ミッドシップやリアエンジンの様な、後ろにエンジンが有る車が、最も物理的に優れた素質を持っていることが分かりますね。

余談ですが、私が今まで乗った車の中で、本当にブレーキングでムチ打ちなるかと思うほど強烈だったのは、MR-Sのブレーキングです。 それもタイヤを含め、フルノーマルの車で す。
もっと軽量で、Sタイヤを履いたFFやFR車に乗ったこともありますが、減速Gは比較にならないほど、ミッドシップのMR-Sが上でした。

レーシングカーにミッドシップが多いのは、色々な理由が有るでしょうが、その一つは間違いなく、このブレーキ性能の高さでしょう。

これは、タイヤの話ブレーキの話からも、非常に理にかなった結果ですね。


さて、このポルシェのブレーキの話は、理想的なブレーキを考えるのに非常に参考になります。
理由が分かったところで、このポルシェのブレーキ性能を参考に、これからブレーキについて考えてみましょうか。
 

以上

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