コーナリングの最適解 その4(実践編)


さて、それでは今までの計算を元に一番速いラインを見つけるには、具体的にどうしたら良いのか?という話を少し書いてみますね。
前回までは何か、大学のレポートを書いているみたいになってしまいましたしね(笑)。

前回書いた結果より、タイヤの摩擦係数μ0.9とすると、車の加速力が0.45[G]よりも小さい時は、「最大の横Gが出せる中で最も大きなRを描くラインが最適解」ということでしたね。
それではどうやって自分の車で、その様な理想的なラインになっているかをチェックすれば良いのでしょうか。

まず大体からして、自分の車に付いているタイヤの摩擦係数を知らない人が殆どだと思います。
まずはその求め方から書いてみましょう。

最適解へのアプローチ(序論)に書いたように、車が出せる最大の加速度をG単位にした値そのものがタイヤの摩擦係数でしたね?
ということは、自分の車が出せる最大の加速度が判れば、タイヤの摩擦係数が求まることになります。

そこでお勧めの方法が、動画放送の方でも何度か言いましたが、加速度センサー付きのスマートフォンを使った測定です。
iPhoneシリーズには全て加速度センサーが内蔵されていますし、Android系のスマートフォンにも内蔵されている機種が多いと思います。
また最近のレーダー探知機にも付いているものがありますね。

簡易的ですが、これらに加速度測定アプリを入れて車に固定すれば、加速度が簡単に測れるようになります。
(もちろん、データロガーを持っている方はそれを使えば良いでしょう。このHPのコンセプトの一つは「出来るだけお金をかけない」ことなので、出来る限り安価な方法をお勧めしています。)

また通常は物理ではMKS系単位を使うため、加速度は [m/s2]を使いますが、これらのアプリは始めからG単位の物が殆どだと思います。 MKS系単位だったら9.8で割る必要がありますが、G単位のものは何の計算もせずに、その値が車のタイヤの摩擦係数μそのものになります。

それでは加速度測定の準備が出来たとして、次に車に最大の加速度を与えてみましょう。
車には加速G、減速G、横G(とそれらを組みわせたもの)がありますが、加速Gでタイヤの摩擦係数ギリギリの加速度を与えることは4輪駆動車以外には不可能ですし、4駆でも4輪ホイールスピンギリギリにするのは通常はパワー的にも難しいと思います。
次に横Gから測定する方法ですが、これは技術的にかなり難しいでしょう。
タイヤの限界ギリギリのコーナリングをする必要があるのでこれは当然、前後輪が同時に限界を出す必要があり、フロントだけが先に滑るアンダーステアを出したり、後輪駆動車でパワースライドをしては正確な値は出ませんし、第一測定するにはよっぽど広い場所でもない限り危ないですからね。

そこでお勧めは、ブレーキングによる減速Gを使った測定です。
ブレーキングは駆動方式を問わず4輪を使いますし、技術もABSが付いていれば殆ど必要ないでしょう。
コーナリングと違って、ひっくり返る事もありませんしねっ。
またエンジンのパワーは関係なく、低速であればどんな車種でもロックさせられるはずです。
後方確認さえすれば、直線でフルブレーキを踏むだけなのでどこでも比較的安全にできるはずです。
(純正車ではロックしてもスピンする事はないと思いますが、後輪が先にロックするような改造をしている車では気をつけて下さい)

そんなわけで加速度センサーを付けて、平地で低速からABSが介入するかロックするまで、フルブレーキを踏んで最大の加速Gを測定してみて下さい。
ちなみにこの時に、車重も走る時と同じ状態にすることをお勧めします。
物理理論上は車重は関係ありませんが、タイヤを太くすると何故グリップが上がるのかに書いた通り、現実の世界では車重を増やすと減速Gが減るはずです。
まあ厳密には、前にエンジンが載っている車だと荷重の殆どが前輪に掛かったり、ピッチングによる車体の傾きをセンサーが拾っちゃったりと細かい事は色々ありますが、大体の値は判るはずです。
理論上は、後ろにエンジンが載っていて足が硬く(ピッチングが少なく)、4輪がほぼ同時にロックするような車では、誤差の少ない値が出るでしょう。

さて、これで自分の車のタイヤの摩擦係数が判りました。
やってみると判ると思いますが、普通のラジアルタイヤならば大体0.9程度になると思います。
上記の通り、その値を2で割ったものが判断のために重要となります。 ここでは、0.9[G]/20.45[G]とします。
次に理論編に書いた、測定する区間のA点とB点を決めます。
この時の区間AB点は、それぞれ最も大回りした時にRが始まる地点と終わる地点にすれば良いでしょう。
(もちろん、もっと直線を長めに取った他の点にしても構いません)

区間を決めたら、前回書いたコーナーのRが終わった地点からB点までの車の加速Gを測って、その平均加速Gが0.45以下であれば、大きいRを選んだ方が区間タイム、コースのタイム共に速いことになります。
もちろん大き過ぎてもダメで、横Gが0.9[G]を維持できる中で最大のRを描くラインが最も速いことになります。

逆に少ないケースだと思いますが、ハイパワー&高トラクション車で平均加速が0.45[G]よりも大きければ、思い切って小回りしてみる方が速い可能性が高くなります。
1速で曲がるような超低速コーナーならば、普通の車でもこのケースはあるでしょう。
(もちろんこの時も、旋回中の横Gは0.9Gを維持している必要があります。)

ただこの場合、先述の極大値にハマっている可能性もあるため、念のためRを大きい方向に少しずつ変化させて、区間タイムがしっかり遅くなるかをテストしてみるべきでしょう。
後は、B点の先の直線の長さと区間タイムと脱出速度から最適値を計算して、最適なRのラインを判断すれば良いでしょう。

といった感じです。


今回は180度曲がり込むコーナーを取り上げて計算しましたが、他のコーナーでも計算の要領は同じなので是非、自分で計算してみて下さいね。
ちなみに実際に計算してみると、浅く曲がるコーナーでは大回りの優位性があり、深く曲がるコーナーでは小回り優位性がある傾向になることを最後に付け加えておきます。


さて、堅い話が続いたのでたまには、動画の紹介でもしてみましょうか。(私が載せたものではありませんが)
4輪駆動車(インプレッサ)で、低めの速度のコーナーが多いコースを走っている動画です。
二人目の運転に注目してみて下さい。 これは、コリン・マクレー選手の運転です。


マクレー選手は著名なラリードライバーでした。(詳しくは検索して調べてみて下さいね)
最後の横転は置いておいて、特に舗装路区間でのこの走りは、今回の計算結果を正に実行しているようで、この運転は個人的に私の考える最適解に近いと思う運転です。

動画放送の方でも言いましたが、これらの計算を突き詰めていけば、コース全体の最も速いタイムが出る「最適な運転」が求まるはずです。
そしてそれをプログラムしたコンピューターを車に載せ、高性能な加速度センサーやGPSなどを使って機械が運転すれば、いつの日か人間には出せないようなタイムが出るような時代が来るでしょう。


ただ今回行った計算結果は、あくまでベースとなる最適解に過ぎません。
目指すべき理想値なのかも知れませんが、現実の世界でタイヤの限界ギリギリであるμ[G]の横Gでクリップを外さずにコーナーのRを完全に一定にしたり、横Gを入り口から出口まで完全に一定μ[G]にすることは恐らく人間には不可能でしょう。

よって今回書いたことは極めて基礎的なことであり、実際の運転の最適解はまた違うものになると私は考えています。
ただ目指すべきものが分からなければ、それに近づく方法も考えられませんからねっ。
これは車だけでなく、他のどんな事でもそうでしょう。

現実の世界では車は曲がりながら加減速をすることもあるし、横Gも変化するでしょう。
更にトラクションステア効果の様な特殊なテクニックが加われば、また違った解も出るでしょう。


実際の運転におけるコーナリングの最適解は、ガチで速くなる練習方法を実践していれば自然とわかってくると思います。
実際に頂いたアンケートの内容を見ると、この練習を実践しているうちに、うっすらとその答えが分かってきている方もいらっしゃるようです。

アウト・イン・アウトでもなく、V字ラインでもなく、スローイン・ファストアウトでもない、コーナーの最適なラインと走り方を「一つの単純な言葉」でズバッと表す言葉を私は持っています。
一流のプロドライバーはそれをやっているように見えますが、言葉としては聞いたことが無いものです。

でもそれはしばらくは書きません(笑)。
今までに書いてきた内容を読んで、同じ要領で物理的に考えれば全く難しいものではないので、皆さんも今回行った計算をたたき台にして、是非考えてみて下さいね。

Back        Top