F20Cを壊さないためには(後編)


さて、オイルの話はこれ位にして、次に駆動系の話に行きます。

どうしてS2000のエンジンは壊れやすいのか?に書いた、 コンロッドやピストンピンに負荷を掛けないためには、駆動系も気をつける必要があります。

まず、燃焼行程で「ドンッ」と燃えて、クランクシャフトに力が掛かり、エンジンが回ろうとするのを一番初めに妨げようとするのがフライホイールです。
フライホイールは、大きなイナーシャ(慣性モーメント)を持っていて、回転の変化を妨げます。
しかも、クラッチやタイヤと違って、フライホイールは全く滑りません!
全部力を受け止めて、そして反作用でエンジンに力(負荷)を与えるわけです。

この一番始めに力を受け止める所の負荷を減らすことは、コンロッドやピストンピン、クランクシャフトの負荷を減らすために非常に効率的です。
よって、軽量フライホイール(正確には、低イナーシャフライホイールと言うべき)を入れるのが良いでしょう。
クラッチカバーは、フライホイールに固定されて一緒に回っているので、これも軽い方がいいでしょう。
(まあ、軽さを売りにしている物は見た事がありませんが)

そして意外と見落としがちなのが、反対側です。
クランクシャフトには、片方にフライホイール、もう片方(進行方向)には、クランクプーリーが付いていますね。
フライホイールだけを軽くすると、逆っ側のクランクプーリーとの重さとのバランスが崩れて、クランクシャフトをネジろうとする力が働きます。
よって、できればクランクプーリーも軽量なものを入れると良いでしょう。(今は販売されているようですが、私がエンジンを載せた時にはまだ売ってなかったので、私は入れていませんが)
できるなら、フライホイールとクランクプーリーはセットでやりたいですね。
そして クランクプーリーは、ウォーターポンプやオルタネータ、そしてエアコンのコンプレッサにベルトで繋がっているので、当然ですが、エアコンを入れて高回転まで回すのはエンジンに悪いです。
まあ、クランクプリーと違って、ベルトは滑るので、壊れるような負荷は与えないかもしれませんが、負荷は出来るだけ避けたいものです。


そして次に、メタルクラッチは避けた方がいいと思います。
特に、ダンパー(バネ)の付いていないメタルクラッチですね。
メタルクラッチは、殆ど滑らずにガツンと繋がるし、繋がったら強烈に繋がりっぱなしです。
クラッチが滑る事により、エンジンの負荷を逃がしているのに、ここが滑らなくなると、思いっきりコンロッドなどに負荷が掛かります。
まあ、「エンジンは消耗品」と割り切って、タイムアタック等をするために入れている人は良いと思いますが、そうでない一般の人は避けた方が良いと思います。
強化クラッチは、宣伝やら、ショップの勧めで、何となく入れてしまう人も居る様なので。

個人的には、エンジンがノーマルならば、クラッチのフェードを感じない限り、純正か、ノンアスベストで少し圧着力を上げた程度の強化クラッチで良いと思います。

後は、タイヤやデフですね。 Sタイヤやスリックタイヤに強いLSD等を入れれば、当然滑る場所が少なくなり、力の逃げ場がなくなります。ノーマルクラッチだったら問題ありませんが、メタルの強化クラッチを入れてロック率の高い機械式LSDを入れて、Sタイヤやスリックタイヤを履いたりすると、どこも滑る所が無いので、力の逃げ場が無く、エンジンの負荷が最大になると理解した方が良いでしょう。(多分、通常よりもはるかに短い寿命でエンジンが壊れると思います。)

どうしてS2000のエンジンは壊れやすいのか?に書いた通り、F20Cはその辺のマージンが他のエンジンと比べて小さめだと思うので、エンジンが消耗品だと割り切れる人以外は、滑る場所を無くす事は、本当にお薦めしません。


さて、次に回転バランスの話に行きます。
エンジンは回転物なので、いかに回転バランスを良くするかが重要です。
回転バランスが悪いと振動が出て、振動により例えばコンロッドボルトが伸びたり、それにより各部のクリアランスが変化したり、ボルトのトルクが落ちたりする事が考えられます。
そうすると、より一層振動が増えて、更にクリアランスが狂って、、、といった具合に、悪循環にはまっていきます。
最後には、エンジンブローのスパイラルへ突入です。
よって、出来る限り始めに回転バランスを取った方が良いでしょう。(パワーを出すためでなく、壊さないために。)

エンジンならば、ピストンやコンロッドの重量合わせ、クランクシャフトの回転バランス。
後は、フライホイールも回転バランスを保証しているものが良いでしょう。
出来れば、フライホイールのダイナミックバランスを取れれば最高です。
(私は取っていませんが、取れば良かったと思っています。)

ダイナミックバランスの威力は絶大で、エンジンが掛かっていても、プリー類やベルトが止まって見えるらしいです(笑)。
もちろん、パワーもチューニングエンジンか?と言う程に出るらしいです。まあ、聞いた話しですが…。
後は、プロペラシャフトの回転バランスを取るのも、かなり効くらしいです。

この様に、回転部分の振動を極力抑える事が、エンジンを壊さない事に繋がります。
ただこの辺は、チューニング屋さんじゃないとやってくれないし、お金が掛かりますね。
順序で行ったら、これは最後でしょう。(S2000は、純正でもこの辺は良く出来ているらしい。特に高根沢で作っていた頃は。)


さて、とりあえず以上です。

まとめると、ラジエターを交換して、ローテンプサーモスタット、ローテンプサーモスイッチに、熱交換効率の良いLLCを入れて冷却を強化して、エキマニにサーモバンテージを巻いて、水温、油温、油圧計を付けて、最適な粘度の良いオイルを入れて、オイルパンにバッフル加工をして、オイルの量を定期的にチェックして、外気導入のエアクリーナーを付けて、フライホイールを軽量のものに変える。
と言った具合でしょうか? 出来れば、回転バランス系も取れればより良いでしょう。

さて、ここで鋭い人はわかったと思いますが、これらのエンジンを壊さないために行ったものは、全てエンジンの性能を上げたり、性能を引き出す物でもあります。(詳しくは、パーツインプレに書く予定)
結局、エンジンを壊さないためのノウハウと、性能を出すためのノウハウは、同じノウハウだったわけですねぇ。

これらを見て、「何かお金掛かるなー」と思うかもしれませんが、エンジンブローすると、もっとお金が掛かります。
高回転で、ピストンピンが折れたり外れたりしたら、中古のS2000が買えてしまう位掛かります。
エンジンルーム内が粉々になって、使える部品なんて、殆ど無くなりますから。
そして最悪なのは、炎上ですね。(私のケースは炎は出ませんでしたが、煙が凄くて前が見えませんでした。 しかも、トンネルの中だったので、本当に危なかったです。)

そして最悪な事に、エンジンブローは、と言うか、あらゆる故障は、車両保険何ておりません。
S2000の様に、バカ高い車両保険料を払っていてもです!

また、エンジンブローは、ハードに運転している時に起きるとは限りません。
ハードに走った時に不具合が積もりに積もって、たまたま公道で普通に運転している時に起きる事もあります。

そして、公道でのエンジンブローはとっても危険です
ギアが入っていれば、いきなりリアタイヤがロックしてスピンする可能性があるし、ハンドルもブレーキも全く効かなくなると思った方が良いです。 まあ、ハンドルは力がある人は切れると思いますが、ブレーキは、サイドブレーキで止まる練習をしておかないと、まず止まれないでしょう。

下りながら左に曲がっている道だったりしたら、高速で対向車と正面衝突する可能性がありますね。
(練習をしたい人は、エンジンを切って、牽引されてみると、スピードと”煙”以外は近い状態になります。
エンジンブロー時の運転の仕方は、どこかに書くかもしれませんが、ブレーキは始めの一回だけ効きます(マスターバックにエンジンの負圧が残っているため)。 それを良く覚えておいて、「ここ」と言う所で使いましょう。 そして、とにかく燃える前に速やかに車から降りるように。)

これらを考えると、私は多少手間とお金を掛けても、安心と安全を買った方が良いと思います。

一応これが、私が考える、どうしてS2000のエンジンは壊れやすいのか?に書いた、「エンジン周りは純正だと壊れる」に対する対処法です。(これだけパーツを変えていても、その殆ど全てがエンジンを壊さないためのもので、純正主義のポリシーからは外れていない事がわかって貰えたでしょうか?(笑))

まあ実際は、ここまでやっても壊れるかもしれませんし、ここまでやらなくても壊れないかもしれません。
一つの参考として下さい。 一応、私のエンジンは、これ以来壊れていません。

少し怖がらせるような事を書いてしまいましたが、どうしてもフルノーマルのままでスポーツ走行をしたい人は、オイルの量だけチェックして、レブリミットは8000回転位にしておけばまず大丈夫だと思います。
特にシフトダウン時に、8000回転以上にならないように気をつけて下さい。
そして、高回転でのエンジンブレーキはできる限り使わないように…。


次に、エンジンの載せ替えや、O/Hの話を書きましょう。
エンジンがヘタって来たので乗せ替えや、O/Hをしようと思っている人でも、エンジンブローした人でも、同じです。
またハードにエンジンを使う人は、ブローする前に、早め早めにO/H なり載せ替えなりをした方が、結果として安くすみます。
(ブローすると(しかたによるが)、エン ジン以外の部品も多く交換しないといけないので・・・。 炎上したりすると、目も当てられません。)

さて、その時に経験上、一つ絶対に言える事があります。
それは、
「ディーラーでエンジンを組んでもらったり、O/H したりしない事」
これは身にしみて思います。

実はこれが、一番エンジンを壊さないための方法だと思っています。
理由はいくつかありますが、まず最近のディーラーのメカニックは、O/H の経験が殆どありません。
これは、最近の車の部品が、殆どAssy交換になっているために、経験を積めないのです。 実際に、エンジンのO/H 作業なんて、ディーラーでは一年に一回も無いそうです。せいぜい数年に一回程度らしいです。(ディーラーにもよるでしょうが平均で)

次に、組み立て場所です。
F20Cは、ミニバンのエンジンと違って、メーカーやチューニングショップでは、温度管理された部屋で緻密なクリアランスや、トルク管理で組まれています。
レーシングエンジン並みのパフォーマンスを出すエンジンなので、仕方がないですね。
ところがディーラーでは、真夏でも真冬でも屋外で組みます。 温度変化なんて、相当あるでしょう。
これで、緻密なクリアランスやトルク管理ができるとはとても思えません。

最悪なパターンを想像すると、初めてエンジンを組む人が、真夏の炎天下で整備書を見ながらF20Cを組んでいる、といった状態です。
ちょっと想像したくもありませんね(笑)。

1番良いのは、メーカーからエンジンAssyを買ってディーラで載せる作業だけをしてもらう事です。
何が良いって、保証が付いていますから。(ディーラー以外で載せると付かない可能性があります)
しかし残念ながら、もうメーカーでF20Cは作っていません。
頼むと、メーカーから部品だけ送ってきて、ゼロからディーラーで組む事になります。
よって現時点で1番良いのは、ノウハウのある、ホンダ系のチューニングショップのコンプリートエンジンを買う事でしょう。

ちなみに、意外な事に、値段はメーカーから部品を買ってディーラーで組むのと殆ど変わりません。
ただ、殆どの場合、保証は付いていませんが…。

個人的には、初期型のエンジンのO/Hを考えている人にも、O/Hよりもコンプリートエンジンの乗せ替えをお勧めします。
後期型のコンプリートエンジンは、ブロックの剛性が上がったり、ピストンが変わったり、色んな所がこっそりと変わっていて、非常に良く出来ています。初期型が苦手だった下のトルクもしっかりあり、K20AとF20Cのいい所をくっつけたような感じです。

また、チューニングショップでのO/H って微妙に高いですよね?
新品のコンプリートエンジン乗せ替えと比べて、価格面でもあまりメリットがあるとは思いません。
後は個人的には、あの薄いシリンダーをボーリング&ホーニングするのが何となく怖いです(笑)。
オーバーサイズピストンも、どうしてS2000のエンジンは壊れやすいのか?に書いた通り、ただでさえ重いピストンの重量が更に上がると思うので、出来れば入れたくありません。
まあ特別なチューニングをして、パワーを上げたいと言う人は別ですが…。


さて、そして最後に運転編です。
エンジンを載せ変えたり、O/Hしたら、必ず丁寧な慣らし運転をしましょう。
F20Cは、最近のエンジンとしては、丁寧な慣らしをしないと壊れたり、性能が出なくなる希少なエンジンです。
慣らしの方法は、別途書く予定です。

そして、どうしてS2000のエンジンは壊れやすいのか?に書いた通り、高回転でのエンジンブレーキは、出来る限り使わないようにしたほうが良いでしょう。 特に、PCV経路のブローバイホースを取ってしまっている人は気をつけたほうが良いでしょう。
どうしても高回転のエンジンブレーキを使うときは、ちょっとだけアクセルを開けておくだけでも大分違うと思います。
理由は、どうしてS2000のエンジンは壊れやすいのか?に書いた通り、圧縮行程でのピストンの荷重を減らすためです。

そして、レブポイントアップは止めておいた方が良いでしょう。
何度も言いますが、F20Cはマージンがギリギリで作られているようです。
社外コンピュータでは、レブポイントの位置を変えられるものが多いですが、9000回転のままにしておいた方が良いでしょう。
実際に、S2000のエンジンチューニングの世界で、回転数アップよりも排気量アップの方向ばかりなのは、性能が出しやすいのもありますが、レブを上げると極端に寿命が短くなったり、壊れるからでしょう。(B16B等は、かなり余裕があるそうですが。)

ちょっと数式はカットしますが、例えば200rpm、回転を上げる事を考えてみます。
レブを7000 rpmから、7200 rpmにしてもエンジンの負荷も寿命も殆ど変わりません。
しかしながら、8800 rpmと9000 rpmでは、負荷も大きく変わり、寿命も大きく変わります。
回転数と寿命は線形ではないのです。 高回転になるほど、僅か100 rpmの影響が大きくなってきます。
例えば高回転域では、レブを100rpm上げただけで、寿命が半分以下になる事も有り得ます。
とにかく、高回転を使うことは、寿命を加速度的に短くすると言う事を覚えておくと良いと思います。

後は、吸気慣性効果を応用したドラテクに書いた、全開シフトをしないとか、クラッチ蹴りをしないとか、シフトダウン時のオーバーレブに気をつけるとか、当たり前の事ですかね。

まあ長くなりましたが、大体こんな感じです。
 

最後に、ここに書いた内容は、素人の私が調べたり、聞いたり、計算したりしたものです。
ですから、当たり前ですが、内容に対しては何の保証も出来ません。
ただ、少しでも参考になれば幸いです。 ここまで知識を付けるのに、えらい時間と労力が掛かりましたから(笑)。

以上



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