どうしてS2000のエンジンは壊れやすいのか?


突然ですが、F20Cって壊れやすいと思いません?? 私だけでしょうか。

私の場合、車はフルノーマル(ディーラーで売っているそのまま)で、オイルは5w−40のMotul 300Vクラスの100%化学合成油、オーバーレブ等の運転ミスは無しで、水温は最高でも95度以下。クラッチ蹴りや全開シフトはもちろん、高回転でのゼロ発進の様な、エンジンを痛める運転も 一切無し。

これで、私のケースでは、大体10,000Kmペースでエンジンブローです。
一般人と違うのは、キッチリ9000回転でシフトアップする事が多い事と、エンジンブレーキを多用する事でしょうか。(信号停止毎に、2速まで落とす。もちろんキッチリ回転数を合わせて。)

まあ、私の場合購入時に、既にオイル減り対策で、ディーラーでO/Hされていた事も原因としてあると思いますが・・・。
それにしても、10,000Kmペースは早過ぎると思います。
日本車では、エンジンは最低100,000Km以上は保証する事になっているはずです。
もちろん本来の性能は出なくなりますが、キッチリとメンテナンスしていれば、壊れる事は無いことになっているはずです。
まあ、市販車である以上当たり前ですね。

エンジンブロー後、 本田技研からすぐにエンジニアが来て、粉々になったエンジンを持ち帰って解析してくれましたが、本田技研に聞いても、今一明確な原因はわからないと言われました。(まあ、色々説明してくれましたが、細かい事は書くのを辞めておきます。)
フルノーマルで乗っているのに壊れるので、「それではどうしたら壊れないか?」と聞いたのですが、それに対しては、本田技研から明確な答えが来ました。
別に口止めされてはいませんが、しかし、その解答はホンダファンのために書くのは止めておきます(笑)。
少なくとも、私は到底納得できる答えではありませんでしたねぇ。

私の勘ですが、おそらく、本当は本田技研は原因が解っているのでは?と思います。
原因が解らないのに、壊さない方法が解るはずが無いと思うので・・・。
そして実際にその答えは、AP2に反映されている気がします。

やっぱり、F20Cは、B18CやB16Bとも違う、市販車としての一般常識が通用しない、特別なエンジンなのでしょう。
(B18C車に乗っていた頃は、オイルは1番安い純正鉱物油で、レブリミッターにバチバチ当てながらエンジンを酷使していましたが、10万キロを超えてもノートラブルで、とても元気でした。)


さて、これにより、エンジンを壊さないために、否が応でも自分で勉強をせざるを得なくなりました。
そして 私が出した答えは、エンジン周りに限って言えば、私のチューニングポリシーの純正主義に書いたものと異なり、「純正のままでは壊れる」と言う物です。
もちろん、F20Cの性能をキチッと出すような運転をした場合の話で、街乗り+α ならばまず壊れません。
また、エンジンにより当たり外れもあるので、一概に言えないことも理解しておいて下さい。

私の研究結果、 ズバリ、F20Cのウィークポイントは、ピストンピンと、ピストンの重量に有ると思います。
カタログには載っていない主要諸元を見て下さい。 まず、F20Cのピストンが、非常に重いことがわかると思います。
ボアが僅か1mm小さいK20Aより154g重いのも、かなりどうかと思いますが、AP2に搭載されるF22Cのピストンよりも、147gも重いと言うのはかなり衝撃です。

ピストンの運動と、ピストンスピードのページに書いた通り、9000回転時の、F20Cの上死点での荷重は2377.4Kgです。
つまり、約2.38トンですね。
これだけの荷重がピストンピンに掛かっている訳です。(もちろん、コンロッドにも、クランクシャフトにも)
もしこれを、F22Cと同じ重量のピストンにできれば、1664.2Kg。つまり、約1.67トンです!!
何と、713.2Kgも荷重を減らす事ができるわけです。これは、約2/3程の荷重に抑える事ができると言う事です。
実際、私のエンジンブローの原因は、2回ともピストンピンがらみです。

余談ですが、F20Cのピストンは、NSXのC30Aのピストンの重量よりも、90gも重いんです。
C30Aは、ボアが90.0mmと、3mm大きいのにも関わらずです!
何故こんなに重くなったのか疑問ですが、これまた、カタログには載っていない主要諸元より、最大有効圧力も1.7[MPa]と、NAとしては異例と言えるほど大きいので、大きな燃焼圧を受け止めるためには、強度的にこれ位の重さが必要だったのかもしれませんねぇ。

ピストンは、強度の話を除けば、軽ければ軽いほどいいはずです。軽ければ、荷重が小さくなって負荷が減るだけでなく、ピストンは加速度運動をしているので、軽いほどピストンにエネルギーを食われる量が減りますから。
物理学的に、質量が有るものが加速度運動をすれば、すなわちエネルギーを消耗している事になります。(何馬力食われているかは、計算がめんどいので省略します)

つまり、軽ければ軽いほどロスが少なくなり、パワーが出る事になります。
それにも関わらず、これ程に重くしたのは、やはり強度的な理由だと思います。
それも、ホンダ初のアルミ鍛造ピストンですよねえ?
こだわって作ったはずですから、ちゃんと意味があるのでしょう。
まあそうだったとしても、2.38トンの荷重がピストンピンに掛かっていることは事実です。
ピストンピンにも、大きな強度が求められるはずです。

強度としては、折れたり曲がったりしなければいいと言う話になりますが、他に重要なことがあります。
それは、ピストンピンと、コンロッドの子メタルベアリングの接触面です。
ここが金属同士、物理的に接触する事はありません。もし接触したら、一発で焼きつきます。
この間には、必ずオイルが入っているわけです。
ところが、上死点で余りに大きな荷重がかかると、オイルの膜が薄くなります。 大きな荷重が、油膜を潰そうとする力として働くわけです。
つまり、ピストンピンとコンロッドのクリアランスが小さくなります。
間が狭くなると、狭くなった面のオイルの流速が上がりますよね?
ちょっと難しくなりますが、この場合はオイルの流体としてのエネルギーが保存するので、ベルヌーイの定理が成り立って、流速が上がるほどオイルの圧が下がる事になります。
そして 液体は、圧が下がると、沸点が下がります。
これは富士山の頂上の様な気圧が低い所で、水が100度以下で沸騰するのと同じ理屈です。

ちょっと図を書いてみます。これは、ピストンが上死点の図です。ピストンピンの上側が、オイルの流速が速くなり、圧が下がります。


とすると、上死点で油膜を作っているオイルの圧が瞬間的に極端に下がり、オイルが沸騰して金属同士が接触しやすくなるわけです。
油温が高ければ、オイルの粘度も落ちているので、なおさらそうなります。
完全に接触しなくても、この部分が局所的に非常に高温になる事が考えられます。
高温になれば、クリアランスは狭くなるし、更にオイルが沸騰しやすくなります。

ちなみに、私のエンジンでは、4気筒ともピストンピンに傷が入っていたらしいです。
そうなると、ピストンピンが焼きつかなくとも、微妙にクリアランスがずれていったり、傷による振動が出たり、オイルの流れが傷でおかしくなったり、色んな事が考えられます。
一箇所振動がでたりしたら、9000回転の世界では、色んな所に振動を与え、それによりまた他の所のクリアランスがずれて…、といった具合にドンドン振動する場所が増えて、おかしくなっていきそうですね。
最終的には、高回転で振動による力に耐え切れず、コンロッドがボキンです。

F20Cには、ピストンの裏側を冷やすためのオイルジェットが付いていますが、それでも追いつかないほどに温度が上がったのでしょう。
(ちなみに私が本田技研から受けた説明は、「何らかの原因でピストンピンが高温になって傷が入った」だけです。)

例えば ピストンピンの径を大きくして接触面を大きくするなり、オイルジェットをもっと強力にするなり、オイルラインを変えるなり、もうちょっとピストンを軽くするなり、或いは他の方法でもう少し荷重がかかった時の、ピストンピンへのオイルの潤滑を考えた設計にすれば良かったのかもしれませんが、F20Cはどうやらこの辺のマージンが少なく、ギリギリの設計になっているようです。

元々F20Cは、オイル減りが激しいし、更にS2000はブレーキングでの縦Gや、横Gの発生も凄いので、オイルが偏りやすいでしょう。
下りでブレーキングしながらのコーナー進入では、Gのダブルパンチですね。
更に、オイルが減っていたら…。

オイルポンプが、オイルを空打ちする可能性が大です。
考えたくも無いですが、そうなれば、油圧が落ちてオイルジェットも空吹きして、あっという間に油膜が切れたり、オイルが沸騰して、ピストンピンが高温になる事が予想されます。
もしその時に、高回転でアクセルスロットルが閉じていたりしたら、圧縮行程でも、圧縮された空気がピストンを押し返せず、ピストンの荷重がピストンピンに最大にかかるので、ピストンピンが焼き付く要素が全部揃いますね。


ちょっとこの圧縮と、ピストンピンに掛かる荷重の説明をしてみます。

左の図が、アクセルスロットルが開いている時の、圧縮行程での上死点です。右の図が、アクセルスロットルが閉じている時の圧縮行程での上死点です。(正確には、ピストンの裏側からも、空気が1気圧で押していますね。)
図のように、気体がシリンダーに入っていれば、上死点で押し戻すクッションのような働きをし、ピストンピンに掛かる荷重を減らします。
具体的には、吸気行程でシリンダーに1気圧の空気が入るという簡単な計算だと、圧縮比が11.7だとすると、実に 718.9Kg の力で空気がピストンを押し戻します。(もちろん、燃焼しない状態で)

つまり、9000回転時には、
2377.4Kg - 718.9Kg = 1658.5Kg
となり、かなり荷重が軽減されますね。

しかし、シリンダーに気体が入っていなければ、2377.4Kg の全ての荷重がピストンピンに掛かってしまいます。
これより高回転でアクセルスロットルを閉じている時、例えば高回転でのエンジンブレーキなどが、1番ピストンピンに掛かる荷重が大きい事が想像できますね。
これも、ピストンの運動と、ピストンスピードのページに書いてありますが、高回転型のNAエンジンでは、燃焼圧によるピストンピンやコンロッドに掛かる力よりも、 高回転時の上死点でのピストンの荷重の方が支配的になりますので。

ちなみに、アクセルスロットルが閉じている時や、少ししか開いていない時に、シリンダー内に空気を入れてクッションとし、荷重を減らす事も、PCV経路のブローバイホースがある理由だと思います。(詳しくは、F20Cのブローバイ経路の研究を参照して下さい。)

これが、私が考えた、純正エンジンです。(間違っていたら、ゴメンなさい)

それでは ちょっと、具体的な壊れやすいシチュエーションをまとめてみます。
「 エンジンオイルが減っているのに気づかず、油温もエンジンのブロックの温度も高い状態で、下りの右コーナーへ、ヒールアンドトーで高回転でエンジンブレーキと減速Gを掛けながら進入する。 」

これが、私が考えた、1番エンジンが焼き付くパターンです。
サーキットだと、例えば、筑波2000の2ヘアかな?

これらの特定の条件が揃っちゃうと、エンジンブローする、まあ車のバグみたいな物でしょうか。
(本田技研さーん、見てたら参考にして下さーい(笑)。)


逆に言えば、原因がわかってしまえば、それを回避すれば問題無いはずです。
それでは次に、エンジンを壊さないためには、どうすれば良いのかを考えてみましょう。
 

続く・・・


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