K20AとF20Cって、どっちが速いの?


さて、最近ではK20Aのチューニングノウハウやら、記事やらが増えてきましたねぇ。
ホンダ系の雑誌などでも、「K20Aは世界最強の2リッターNAエンジン」何て書き方も良く見ますね。
特にFD2シビックタイプRが出てからは、なんだかF20Cはシカトされているような気もします(笑)。
更に、DVDの新車評価などでも、AP2のS2000が新型シビックRに直線で抜かれるようなシーンもあり、初期型S2000オーナーとしては、何か寂しいですね。

「K20AとF20Cって、どっちが速いの?」 というのは、ちょっとセンセーショナルなタイトルになってしまいましたが、直線での加速力はエンジンだけでなく、空気抵抗やギア比、車重等が絡んでくるので、今回はエンジンだけに的を絞って書いてみたいと思います。

速いエンジンの定義と言うのは難しいですが、今回は最大パワーが大きく、更にパワーバンドも広い物を速いエンジンとする事にします。
カタログ値を持ち出しても意味がないので、ちょっとエンジンの素性と言うか、基本設計から考える、チューニングを含めた可能性について考えてみたいと思います。

一般にK20AとF20Cの最大の違いは、やはりi-VTEC(連続可変バルブタイミング機構)が付いているかどうかだと思います。
i-VTECが付いているK20Aは、第2世代のVTECエンジンと言えるでしょう。
しかし、エンジンのもっと基本的な部分、更に言うと物理的な部分にこそ、そのエンジンの素性や可能性が有ると思います。
ピストンの運動と、ピストンスピードに書いた通り、同じ排気量のNAエンジンでパワーを上げるには、とにかく高回転まで回す必要が有ります。
トルクを上げるのが難しいNAエンジンではこれは常識の様ですね。


つまり、パワーを上げられるかどうかに必要な要素は、まずいかに高回転まで回せるかどうかと言えるでしょう。
ここで重要なのは、高回転まで回せば回すほどパワーが出るかと言うとそうではありません。
もしもK20AやF20CをF1エンジンの様に2万回転まで回せるようにしたところで、パワーは全く出ないでしょう。(壊れないとして)
これは、ハイカムだとか、吸気系だとか言った話ではありません。
何故パワーが出ないかと言うと、ガソリンを点火して、燃焼したときの火炎伝搬速度は無限大ではないからです。
つまり、点火された混合気が火炎となり、膨張する速度よりも速い速度でピストンが下がってしまうと、ピストンをしっかり押すことができないのです。
正に、「のれんに腕押し」状態です。 これではトルクが掛けられません。
ピストンスピードには最適値が有るわけです。
大体、F1エンジンの最大出力回転時の、平均ピストンスピードは、24[m/s]強らしいです。
意外と低いですねぇ。 B18C-Rよりも低いです。
これは、恐らくこれ位の平均ピストンスピードが一番効率が良く、これ以上ピストンスピードを上げても、あまりメリットが無いのでしょう。

と言う事わ、、、
高回転まで回って、かつピストンスピードを落とすことがNAエンジンでパワーを上げるセオリーになるはずです。
これは簡単ですね。 ストロークを短くすれば良いだけです。
つまり、排気量と気筒数が決まれば、ストロークの長さがそのエンジンの基本的な素性を決めると言えるでしょう。
ストロークが短ければ、高回転まで回してもピストンスピードが抑えられるのでパワー型のエンジンに出来るし、逆にストロークが長ければ、高回転までは回りませんが、同じ燃焼圧でもクランクシャフトに掛けられるトルクが大きくなるので、 低回転でもトルクが出しやすいですね。

これは、ポート研磨だとか、圧縮比だとか、カムだとか、バルブタイミングだとか、吸排気のセッティングだとかではどうしようもない、エンジンの基本的な素性です。
ちなみに、HONDAのF1のエンジンは、3000ccのV10でストロークは大体40mmチョイの様です。これは、K20A(86mm)やF20C(84mm)の半分程度ですね。
極端に短いストロークは、超高回転型エンジンの証ですね。


さて、K20AとF20Cの話に戻りますが、上記の通りパワー型のエンジンにするには、ストロークは短い方が好ましいわけです。
そして、ストロークに関して言えばF20Cの方が2mm短く、高回転型となりますね。
例えばF20Cは8600回転で、平均ピストンスピードは大体最適と言われる24.1[m/s]となります。
しかし、K20Aは8600回転で、平均ピストンスピードは24.7[m/s]となります。
逆にF20Cは8850回転で、平均ピストンスピードは大体24.7[m/s]となります。
うーん、僅か2mmでも結構変わる物ですね。

馬力と、トルクと、加速の関係より、パワーはトルク×回転数なので、同じトルクなら高回転で出せる方がパワーが出ましたね。

まあ、この話よりF20Cの方がショートストロークのため、ピークパワーは多少大きくすることが出来そうですね。
このボア・ストローク比と言うのは、エンジンのキャラクターを表す大きなパラメータでしょう。

しかし私は、K20AとF20Cの比較で、もっと重要なのは連カン比だと考えています。
これも、詳しくはピストンの運動と、ピストンスピードを読んで欲しいのですが、連カン比 の大きさは、高回転化のためには絶対に欠かせない要素です。
ボア・ストローク比よりも、むしろこっちの方がやる気度が感じられる物ですね。

コンロッドは長ければ長いほど側圧が減り、ピストンの首振りも減り、結果振動が少なく、ピストン荷重も少なく、最大ピストンスピードも遅く出来ます。 出来れば、無限大にしたいくらいです。
これも、ピストンの運動と、ピストンスピードに 詳しく書いたので、ここでは連カン比が与える影響の詳細は省略しますが、カタログには載っていない主要諸元を見れば一目瞭然ですね。

F20Cの方がストロークが短いにもかかわらず、K20Aよりもコンロッドが14mmも長いですねぇ。
更に2リッターではないですが、ストロークだけ上げて排気量を2.2リッターにしたF22Cのコンロッドの方が、K20Aのコンロッドよりも10.7mmも長いです!
これにはちょっとびっくりです。
連カン比は、バランス取りやポート研磨や吸排気などと違い、後からどうかなる物ではありません。
変えるとなると、チューニング(調律)と言うより、エンジンブロックを高くしたり、コンロッドとピストンを設計し直すなどの大手術が必要です。

ここら辺から、F20Cの高回転まで回す本気度が感じられます。
よって、K20Aと比較して、ショートストロークで、そして遥かに大きい連カン比。
これらは、物理的に高回転まで回すために有利で、それはつまりNAエンジンにおいては、ハイパワーを出すのに有利と言う事になります。

しかし、この物理的なデメリットを何とかしてしまうのが、ホンダのエンジン作りの凄い所です(笑)。
例えば、DC2インテRに搭載されるB18C-Rは、ストロークも87.2mmと決して短くないし、連カン比も3.16と決して良くありません。 K20Aの3.23よりも 小さいです。
しかしながら、高回転まで良く回る名機でしたね。
つまり乱暴に言うと、ホンダがその気になれば、どんなエンジンがベースでもTypeRと呼べるようなエンジンに出来てしまうのではないか?って気がします(笑)。


そして、今回取り上げたK20Aももちろん、ボアも、ストロークも、連カン比も、エンジンの基本的なジオメトリは、ストリーム等のミニバンに搭載される初期のK20Aと同じです。 あくまで、ベースはこのエンジンな わけです。
それを、ホンダの技術でTypeRに相応しいエンジンに仕上げてきたわけですね。
実際に、連続可変バルブタイミング、i-VTECを搭載した第2世代のVTECエンジンの性能は強烈で、K20Aの性能は非常に高いです。 一言で言うと、悪い所が無い優等生エンジンです。
坂道発進や車庫入れも楽だし、高回転では軽く、気持ち良く回ります。
カムが切り替わる前のトルクの谷も適度にあり、カムが切り替わった時の高揚感も適度に保ってくれています。
ハイカム域でも、 連カン比の悪さなど忘れるほど、モーターの様にスムーズに8400回転まで回りますね。

それに対し、F20Cはハイカムに切り替わってからはたまらない性能を発揮しますが、低回転でのトルク不足は確かに感じますかね。
元々ショートストロークのエンジンは、構造上トルクは小さくなるし、i-VTECも付いていませんからね。
ただその分、ハイカムに切り替わってからのドラマチック感はF20Cが完全に上ですかね。
優等生と言うよりも、癖が有り、個性的と言う感じでしょうか。
ターボエンジンに例えると、俗に言う「ドッカンターボ」の様なイメージですかね。
1.5世代のVTECエンジンと言った感じで、B型エンジンの名残が残っている感じです。

この辺に、両エンジンの設計思想の違いが見受けられますね。
知っての通りVTECと言うのは、元々全回転域を使えるように工夫して作られたもの。
ただ私は、あくまでボア・ストローク比や、連カン比等のエンジンの基本設計や基本特性を補う物だと考えています。
知っての通り、レーシングカーにはVTECの様な物は付いていませんし、VTECエンジン搭載のタイムアタック用チューニングカーでも、VTEC機構を外している物が多いですね。
サーキット専用マシンで、ましてプロドライバーの運転では、低回転のトルクなど必要ありませんから。
と、、、言うのも一つの理由ですが、それならばVTECが付いていても害はないはずです。
しかしわざわざ外すのは、エンジンの動弁系は軽くてシンプルな方がパワーが出るからです。
VTEC機構と言えども、高回転域ではイナーシャが増え、パワーを喰う重量物なのです。
i-VTECとなれば、より仕組みが複雑なので更にパワーを喰うでしょう。
よって、高回転域ではi-VTECはVTECよりも、パワーを喰う邪魔物なのかもしれません。

かと言って、市販車である以上F1のエンジンみたいにアイドリングが5000回転何て訳にもいきません。
やはり、市販車ならば街乗りも考えて、高回転で多少のロスが有っても、VTECやi-VTEC機構は必要ですね。


さて、長くなりましたが、両エンジンの私の所見は以下の通り。
高回転型のパワー型エンジンを、VTEC機構で低回転でも使えるようにしたのがF20C。
逆に、中回転型のバランス型エンジンを、i-VTEC機構で高回転でも使えるようにしたのがK20A。
これらは、似て非なるエンジンだと思います。

で、肝心のどちらが速いかと言うと、これは乗り手次第だと思います。
実はFD2シビックRには乗ったことが無いので、何台も乗ったDC5との比較になりますが、ハイカムを維持して走れるならばF20CはK20Aにどこも負けていません。
まあ基本設計が、そこに合わせて作ってあるので、当たり前ですね。
また、F20Cの方が高回転ではトルクが有ると感じました。

逆にクラッチミート時や、シフトミスで回転数を落としてしまった場合には、K20Aの優位性が有りますね。
まあ、全体的にK20Aは乗っていて運転が楽ですかね。
ただ高回転では、軽く回る感じですが、今一トルク感が薄い感じでした。

まあ、概ねどちらのエンジンも、カタログのパワーカーブ通りのフィーリングでしたかね。

ただ1つ重要な事が有ります。 F20Cは、温度による補正がシビアなので、温度管理をキッチリやることが前提です。
特に吸気温度は、低回転では吸入量が少ないため高くなるので(吸気系は中から冷える)、補正が大きく掛かり、その為に低回転のトルクが無いと勘違いしている人も多いと思います。

また声を大にして言いたいのが、100系、120系のF20Cと、130系以降のF20Cは別物と言っていいほど違います。
130系以降では、苦手だった低中回転のトルクもK20Aと遜色無い程出ていると思います。
i-VTEC等を使ってないのに、これは立派です。
130系からは、主にタイヤのインチアップや、足廻りのジオメトリの変更がされているとカタログには書かれていますが、エンジンについては特に変更されたとは書かれていませんね。
でも、実際にはかなり違いますね。 どうして書かないんだろう?

ローカムでもトルクが出るようになった分、カムが切り替わった時のドラマチックさは減ったかもしれませんが、明らかに広い回転数を使える、速いエンジンになっていると思います。
実際に、フルノーマルから吸排気をやってあるマシンまで、何台かのDC5と加速力を比較してみましたが、後期型のF20Cはどこも負けていませんでした。
はっきり言って、60Kg以上車重が重いのにも関わらず、全領域で圧勝です。 乗り比べると、判りやすい物ですね。
よって私は、130系以降のF20Cが最強の2リッターNAエンジンだと思っています。

もしも、サーキットのタイムで130系以降のAP1が、初期型よりも速いタイムを出しているとしたら、それはタイヤの17インチ化やジオメトリの変更ではなく、エンジンの違いではないかと思うほどです。(フルノーマル同士ならば、実際にそうではないかと思っています。)

まあ、どちらにしろF20Cは生産終了したエンジンだし、逆にK20Aは新型シビックに搭載され、シビックワンメークレースも始まり、当然メディアでは今更F20Cのチューニング情報を載せてもしょうがないですね。
更にパーツメーカーも終わりゆくエンジンよりも、新車が発売され、これから売れるエンジンのチューニングパーツを優先するのは当たり前ですね…。
そしたら、メディアやチューニング屋さんは、K20Aは最強のエンジンとか言いたくなるでしょう(笑)。
ただ最強と言われると、ちょっと引っかかりますが(笑)。

ちなみに FD2シビックRのK20Aは、凄く良いらしいですが、圧縮比をF20Cと同じにして、NSX製法採用のヘッドポートや、クランクシャフトの改良や、スロットル径の拡大や、エキマニの改良などで性能を上げているようですね。
しかしこれと同じ技術で、F20Cをマイナーチェンジして作れば、恐らくF20Cの性能も更に上がるでしょう。
やはり、エンジンの基本的な設計、ジオメトリの壁は超えられないと思います。

素人考えですが、S2000もマイナーチェンジ時やTypeS開発時に、これらのK20Aに行った改良に加え、どうしてS2000のエンジンは壊れやすいのか?に書いたように、ピストンの重量をK20AやF22Cと同程度に軽くして、コンプレッションハイトをもう少し短くして、コンロッドを長くすれば、レブを9500回転以上に設定できる、唯一無二の面白いエンジンが出来たのではないかと思っています。

ただ、S2000のエンジンのパワーアップ方法は、メーカーを始め、社外パーツも揃って排気量アップの方向へ行ってしまっているので、確かめられないのが残念ですが。

逆に、FD2シビックRのK20Aで、F20Cの様にストロークアップで排気量を上げるのは難しいでしょう。
ストロークを上げて、これ以上連カン比が悪くなると、さすがにスポーティーな気持ちいい吹け上がりは難しいと思うし、震動が増えてレブリミットも下がるでしょう。 無理してレブを上げると極端にエンジンの寿命を縮めそうですね。
これは、連カン比という、基本設計からくる特性なので、どうしようもないですね。


最後に、F20Cを壊さないためには(後編)にも書きましたが、これからF20CをO/Hしようかと考えている人には、初期型のブロックをボーリング&ホーニングしてやるよりも、 腰下は後期型のF20Cベースのエンジンに交換してしまう事をお勧めします。
大きなところでは、エンジンブロック、ピストン、ピストンリング、クランクシャフト、ロッカーアーム等がパーツリストの型番では変わっています。
特に、ブロックは剛性が上がっているらしいのでお勧めです。 ピストンリングも良く出来ているようです。

以上



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