ランエボとインプレッサの小話  その3



さて、続きです。
ではEJ20はリストリクターなんか付けなければ高性能になりうるのでしょうか?
残念ながら、答えはNOでしょう。

仮に高回転に耐えられる巨大なタービンを付けても、或いはNAエンジンに変更したとしても、恐らく高回転は回りません。
(実際にベースモデルやレガシィーなどに搭載されているNAモデルも上はあまり回りません)
さて、なぜでしょうか??

このHPを読んできた方なら恐らく察しがつくと思いますが、EJ20は“連桿比(レンカンヒ)”が悪すぎるのですよ。つまり、コンロッドが短すぎるのです。
コンロッドが短いとどうしてもピストンに横力が強くかかり、首振りをしたりフリクションが大きくなるのです。(F20CとK20Aの話も参考になるでしょう)

そもそも同排気量であるS2000搭載エンジン、F20Cの9000回転まで回る超高回転型エンジンでさえ、ストロークは84mmです。
このF20Cのピストンスピードが、ガソリンの燃焼速度から来る限界スピードになるのがちょうど9000回転でしたね。
ではEJ20の75mmのストロークが限界速度に来るのはどれ位の回転数かと言えば、10000回転オーバー!です。

ですが実際にはインプレッサSTI搭載のEJ20は、8000回転程度がレブリミットとなっていますね。
(これはターボのためではなく、むしろNAモデルはもっと低い)
これはコンロッドが短すぎるために、振動や首振りが多くて高回転まで回らないのでしょう。
これではショートストロークにした意味がありません。 超高回転型の物理特性を持つエンジンですが、連桿比が悪くてはどうにもならないのです。
4気筒水平対向エンジンは物理的に二次振動が存在しない、本来は超低振動特性のエンジンなのですが、EJ20は連桿比が悪いので乗ってみると意外と振動が多いのです。 これはもったいない……。


うーむ、ではなぜこんなにコンロッドが短いのでしょうか??
それは水平対向エンジンは高さは低い代わりに幅を取るからでしょう。
3ナンバーのエンジンルームのでかい車にしか搭載しないのなら、エンジンの幅が広くても良いでしょうが、EJ20はGC8インプレッサの様な5ナンバーの小さい車にも搭載しますからね。
だから横幅を広く出来ないので、コンロッドもストロークもやむなく短くしたのだと思います。

つまりスバルは高回転型のエンジンを狙って作ったのではなく、結果的にやむなくそうなってしまった、といったところが真実でしょう。
実際にEJ20の後継モデルであるFA20では、ボア・ストローク比がスクエアになっていますよね?
そして直噴であることもあるでしょうが、ターボモデルでは実際に低回転から巨大なトルクを出しています。
(私個人的には、FA20こそ大きなポテンシャルを秘めていると考えています)

物理的に、或いは工学的に言えば、そんな矛盾をはらんでいるのがEJ20というエンジンなのです。
でもあまりメディアでこの話は見ませんよね……
 
更に他にもインプレッサのパワーユニットにはデメリットがあると考えます。 一つはインタークーラーの位置です。
ランエボと違いインプレッサはエンジンの上にインタークーラーが付いていますね。
これはヨー慣性モーメントを小さくするためだとか、インマニからの距離を近くしてレスポンスを上げるためだなんて言われていますが、その位置に乗せてはせっかくの低重心エンジンの重心が上がってしまいます。
(実際にNAのEJ20搭載車はすごく頭が軽く回頭性が良い)

またエンジンの下を熱々のエキマニが通っており、その上にこれまた熱々のエンジンが有るのですから、熱気がもろにインタークーラーを襲う構造になっています。(熱気は下から上に上がるため)

実際に少し停車しただけで、インタークーラーは触れないくらい熱くなります。
圧縮した空気を冷やすのがインタークーラーの役目ですが、これではかなり走行風を当てないと冷えにくいでしょう。
また位置とスペース的に、大きなインタークーラーを搭載できません。

よってインプレッサにこそインタークーラーウォータースプレーが必須だと思うのですが、何故かスペックCなど一部のモデルにしか付いていません。(対するランエボは全モデルに標準装備)
ちなみにWRカーのインプレッサは、前置きインタークーラーに変更されていますね。
最大馬力は市販車と同等の300馬力程度であっても、長時間性能を持続させるためには前置きにしないと厳しいのでしょう。
 
ではインプレッサで前置きインタークーラーに変更しようと考えると、これまたかなりお金がかかります。
パイピングなどを含め、殆どワンオフしか無いんじゃないでしょうか?(昔はそうでした)



ただ前置きにすると配管が長くなって、レスポンスが相当悪化するそうです。
またインマニに来るパイプが前から来るため、180°曲がることになりますね。 これは相当効率が悪くなります。
それを解消するためには、インマニを前後逆転搭載したりする必要が有るので、これまたお金がかかります。
更に元々インタークーラーを前置きにする設計ではないので、先端に遮風物であり熱い空気を出すインタークーラーを置くと、ラジエターの冷却が足りなくなるそうです。 そうなるとラジエター交換も必須ですね。
インプレッサのラジエターは、キャパがギリギリ(むしろ足りない)ですから。

見たらわかりますけどインプレッサのラジエターって、ビックリするくらい薄いですよね。
(対するランエボのラジエーターは純正でアルミ二層で、400馬力程度までなら十分のキャパ。 下手な社外品よりも冷える)


続く……


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