曲げるための三菱のアプローチ



さてぇー、手動のDCCDをいち早く投入したインプレッサに対し、ずっとビスカスデフを採用していたランエボは、どうしてもアンダーステアが強い曲がりにくい車だと言われていました。まあインプレッサが良く曲がるのはセンターデフだけが理由ではなく、縦置きで低重心のエンジンやサスペンションのジオメトリなどももちろん関係しているんですがね。

対するランエボは、バージョンVまでは確かにアンダーステアが強めでした。
そこで三菱が投入したのが、いわゆるAYCだったわけです。

スバルがセンターデフに電子制御を取り入れたのに対し、三菱はリアのデフに電子制御を取り入れたわけですね。
AYCについては今までにも何度か書いてきたし、詳しい説明もあるのでここでは触れませんが、ランエボWから投入されたAYCは、ビスカスセンターデフの車をびっくりするくらい良く曲げたのです。 ええ、それはもうFR車であるかのようにです。

一つ、良く有る誤解が、AYCはアクティブ・ヨー・コントロールシステムの略ですが、文字通りヨーを「作る」のではなく「コントロールする」ものなんです。 つまりAYCは、ヨーを作るだけでなく止めることもするのです。
よってスピン挙動になったらすかさずAYCがヨーを戻す働きをするため、AYC搭載車はまずスピンすることはないし逆ハンドルを当てたドリフトも不可能です。
ビデオなんかで第二世代のランエボがドリフトしたりスピンしたりする映像も有りますが、あれは大抵リアのデフを機械式に交換してある車です。(というか、そもそも競技用のRSグレードにはAYCは付いていません。エボYで途中からオプションで付けられるようになりましたが……)
よって舗装路でAYCを付けたままカウンターを当てたドリフトをするには、恐らくAYCが制御出来ないほどの、相当なスピードが出ていないと不可能でしょう。
おっと、少し話がずれましたね(笑)。 リアデフの話はこの辺にして、センターデフの話しに戻しましょう。
 
 
さて、お気づきのようにGT-Rのアテーサが一つのコーナーの中で連続的に前輪の駆動力配分を変えているのに対し、インプレッサのDCCDはステージによってセンターデフの効きを変えるものでした。
つまりターマック(舗装路)ならターマック、グラベル(ダート道)ならグラベルといったようにステージごとに変えるもので、走行中に一つのコーナーの中で変えるものではありません。

そんな中で満を持して登場したランエボZが、はじめてフルタイム四駆のセンターデフに電子制御を使って、センターデフの拘束力を一つのコーナーの中で変えるようにしてきました。
それがACD、アクティブ・センターデフという電子制御のセンターデフですね。

これは云わばスバルのDCCDをコンピューターが自動的に切り替えてくれるようなシステムです。
今まで書いてきた様に、センターデフというのはフリーに近づければ回頭性が上がり、ロックに近づければトラクションや安定性が上がります。
ところが一つのコースの中、或いはコーナーの中においても、回頭性を優先したいセクションもあれば、トラクションを優先したいセクションもありますよね?

例えば高速域からフルブレーキを踏んでRの小さいコーナーに入るケースを考えてみましょう。
まず直線でのフルブレーキでは、車体が安定していることが重要です。 ここでリヤがフラフラするような車では、怖くてフルブレーキが踏めませんよね? 
だからACDは直線でのフルブレーキでは、ロックするようになっています。 これは各種センサーを使って判別しているそうですが、ブレーキペダルもそのスイッチの一つです。
実際にエボZ以降の第三世代のランエボのブレーキング性能は、超強烈です。
センターデフがロックするおかげでとても車体が安定しているため、思い切り突っ込むことが出来るわけですね。
これは後輪のブレーキを強めに効かせても、センターデフがロックしていれば前後輪の回転差が出ないのですから、リアが先にロックしてオーバーステアになるようなこと無く安定させることが出来るため、全体の制動距離を短くする効果もあるでしょう。

さて、コーナーに備えて減速したら次はターンインですね。 ここはコーナーに入っていく部分です。
ここではハンドルを切って曲げていく部分なので、センターデフがロックしっぱなしでは先述のタイトコーナーブレーキング現象で曲がりませんね?
よってここでACDはセンターデフの拘束力を緩めるわけです。 するとあら不思議、タイトコーナーブレーキング現象が現れず、びっくりするくらい回頭性が上がるのです!
正にこれは四駆の安定性と回頭性の両立なのです。 そしてコーナーの加速区間に入ってからは、四駆最大の武器であるトラクションが最も欲しい部分ですね? よってここでまたセンターデフ(ACD)はロックに近づけていくのです。
するとFRの様にパワースライドすることもなければFFの様に前輪だけが空転することもなく、四輪による最高の加速が出来ることになるのです。
ここのトラクションだけで言えば、恐らくGT-Rよりもセンターデフを持つフルタイム四駆のランエボの方が上でしょう。
(ブレーキングの安定性も恐らく上だと思います)

このセンターデフの制御を自動でやってくれるACDは、登場した当時は本当に強烈なインパクトでした。
この様に三菱は四駆の欠点を見事に消してきて、ACDとAYCの統合制御によってFRよりも曲がるとさえ言える電子制御は、正に夢の様なシステムだったのです。
このACDは初代から非常に完成度と信頼性が高く、すぐさまS耐などのレースでも使われていたようです。
またランエボZ以降では、ジムカーナの様な回頭性重視の競技であっても、先述のターマックギアを入れることは殆ど無くなったようですね。
ACDはプログラム変更だけで(つまりソフトウェアだけで)特性を変えられるので、まあ物理的にセンターデフを変える必要はなくなったのでしょう。
そんなわけで三菱の理想的な四駆システムとして、ACDは大成功を収めたのです。
 

エボWまでは良きライバル関係を保っていたものの、ランエボXの登場以降、エボZまではスバルのインプレッサはずっと後塵を拝していました。
ランエボとインプレッサがライバルだったのも昔の話……、今やランエボのライバルはGT-Rだけか……、何て雰囲気が漂いだした頃、スバルは起死回生の車を登場させてきました。 それが、GDBのC型のインプレッサSTIです。 いわゆる涙目のモデルですね。

C型になったインプレッサはエンジンが等長等爆になって、ボクサーエンジン独特のサウンドが消えたなど変更点が多いのですが、その中でも駆動系に関してはDCCDにオートモードを付けたことがエポックメイキングだったでしょう。
つまりGC8の時代にいち早く電磁クラッチによるDCCDを搭載し、かつて先行していたスバルですが、ランエボZの登場以降は完全に三菱に対し電子制御で遅れをとっていました。
そこでスバル版のACDを、“DCCDのオートモード“という名で搭載してきたのです。

スバルはランエボに対抗するためには、電子制御のセンターデフがマストだと考えたのでしょうね。
四輪駆動車を速く走らせようと思ったら、どうしてもこのセンターデフの問題をクリアしなくてはならないのです。


余談ですが、WRCの世界ではWRカー規定で出ていたインプレッサにしても、グループA規定で出ていたランエボYTMEまでにしても、この時既に前後、センター、の全てのデフが電子制御だったそうです。 だから電子制御センターデフの有効性については十分にスバルも知っていたはずですね。

ちなみに市販車のフロントに電子制御のデフ、AYCの様なデフを取り入れないのは乗り味が不自然になるからだそうですね。まあココらへんは、速さが全ての競技車と市販車の違いなのでしょう。  


続く……



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