エボZGT-A試乗記


さて、堅い話が続いたので(笑)久しぶりに試乗インプレッションでも載せてみますね。
BRZ同様、試乗記の内容はブログというか日記のような軽い感じで行きます。文調もかなり乱文です。
物理とは関係ない私の主観、個人的な感想なので、それを了解する方のみ読んでくださいね。


さて、久しぶりの試乗記です。その車とは……、ランエボZGT-A。
何だか今更エボZはないだろうって声が聞こえてきそうですねぇ(笑)。
もう 14年前の車なんで当然試乗車ではなく、先日友人が購入した車の試乗です。
その前に、いまどきの若い人はランエボZって知ってますかねえ? まあ、価格的にはやっとこなれてきて、若い人にとっては今が買い時なのかもしれません。そこでちょろっとこの車のおさらいでも書いておきましょうか。
 
三菱のランサーエボリューションは、WRC(世界ラリー選手権)に勝つために開発され続けてきた四輪駆動のターボ車です。
WRCのレギュレーションに合わせて毎年のように進化、それこそエボリューションを重ねてきた車ですね。エボZはその7代目となる車です。
エボYTMEまでは、三菱は改造範囲の広いWRカーではなく、市販車に近いグループAの規定で出場していたので、元々はホモロゲーションを取るために仕方なく?限定台数を市販していた車でした。しかしながらエボZからはWRカー規定に変更となったので、市販モデルはラリーよりもサーキットを意識したと言われています。

またエボZ(CT9A)から、ベース車両がランサーミラージュからランサーセディアに変更され、車体が大きくなりました。それに伴いホイールベースも伸び、車重も増えたので曲がりにくくなってスポーツ走行には不向きかと思うところですが、そこは三菱の伝家の宝刀、AYCに加えて新たにACDが導入され、鬼のように曲がる車である、というのが一般のイメージですかね。
因みに同世代のライバル車であるスバルのインプレッサは、丸目のGDB-A型の時代です。
この時代のインプレッサはまだDCCD(ドライバーズコントロールセンターデフ)のオートモードが付いておらず、ACDとAYCを統合制御して電子制御で曲がるエボZは、曲がり方が不自然で気持ち悪いとか、乗せられてる感が強いなんて言われていましたね。
低重心で素のレイアウトのいいインプレッサに対し、ランエボはフロントヘビーで素性の悪い車を電子制御で無理やり曲げているなんて雑誌などにはよく書かれたものです。

更には、エボZは「エボ使い」と言われるような特殊な技術が必要で、普通の人が運転すると全く曲がらない何て話も有りましたね。私も助手席には何度か乗せてもらったことがありますが、曲がり方が独特だった記憶が有ります。
そして今回試乗したエボZGT-Aは、そのエボZのオートマモデルです。オートマでもエンジンは同じ4G63で、最高出力272馬力。
二次エアパイプ(ミスファイアリングシステム用)がないくらいで、それ以外はエボZと同じです。ただし、タービンはレスポンスを重視したもので小さめとなっています。これは、オートマのラグとターボラグが重なってレスポンスが低下するのを最低限に抑えるためなのかな?
或いはATミッション保護のためなのか分かりませんが、ブーストアップのマージンは少し小さめとなるでしょう。
その他には足廻り(サスペンション、スタビ)や、タイヤ幅(225)が少し違う程度ですかね。車重はオートマなので重くなっています。
 
一つ余談ですが、ランエボは電子制御で曲がると言われていましたが、サーキットなどでタイムを出しているモデルはRSという軽量モデルで、AYCは付いていません(オプションで付けられますが、競技には向かないので付いていないものが多い)。普通の機械式デフです。
エボZ以降はRSにもACDは付いていますが、インプレッサもGDBのC型以降はDCCDのオートモードが付いていて、これはACDと同じ電子制御のセンターデフです。
つまり、ベストモータリングやガチの競技でタイムを出していた車は、実はどちらも同じ電子制御を使っているんですよね。
ま、ランエボとインプレッサの歴史を書くときりがないので、おさらいはこの辺にしておきましょうか(笑)。

 
前置きがかなり長くなりましたが、ランエボZGT-Aってのはそんな車です。
では、先ずは外見から。ランエボと言えばボンネットに空いた大きなダクトが目立ちますが、GT-Aにはこれがありません。
穴がないだけで、随分とおとなしい印象になるもんですね。そしてリアのド派手なスポイラーも付いていません。
じつはGT-A用の小さなスポイラーが有るんですが、それを外してあるので後ろ姿もとても普通のセダンですね。
でもホイールの奥に見える真っ赤なブレンボのキャリパーが、分かる人には分かる車って感じです(笑)。
次にドアの開閉ですが、中々剛性感がある感じですね。そしてコックピットですが、メーター類はMTと同じです。ACDの切り替えスイッチもちゃんと付いています。だけどここでまさかの木目調の内装が!!エボに木目調ってのが、ミスマッチで面白いです(笑)。
 
それではシートに座ってエンジンかけて、早速試乗インプレッションへと。
発進してまず思ったのは、1480Kgの車重からイメージしていたよりもずっと軽快感が有ります。剛性が高いせいか足のせいか分かりませんが、そう感じました。まあ車ってのはブッシュとか色んな所がカチッとしていると一体感が有って、軽快に感じるものですからね。またMTモデルよりも足が柔らか目で乗り心地はいいですよん。
 
まあこの車は、街乗りインプレッションはいいでしょう(笑)。
早速お山に行って振り回しインプレッションです。はたして自分にハイテク電子制御を使いこなせるのか?? 取り敢えずACDはターマーックモード(舗装路用)で行きましょう。
私は初めて運転する車では、必ず始めにブレーキの効きをチェックするんですが、これはタッチが素晴らしいですね。CT9AはCP9Aからマスターシリンダーのキャパが増えて一回り良くなっています。終始カッチリとしていて、ブレンボキャリパーの様な対向ピストン式特有のフワフワ感が皆無ですね。ピストンのノックバックも少なく、プレブレーキ(左足でチョンチョンするやつ)も必要なさそうです。
 
では早速攻めこんでみましょうか。先ずはセオリー通りの運転で前荷重をかけて一個目のコーナーにドーン。
うーん。長いホイールベースを物ともせず、めっちゃ曲がります。これで曲がらないとか言ってるのは誰だ?(笑)
確かにターンインでセンターデフがフリーに近くなっている感覚で、四駆特有のブレーキング現象を殆ど感じません。曲がり方が自然で全く違和感が無いです。
これは、同じくはじめて電子制御のセンターデフを付けたGDB-C型インプレッサの荒い制御(後にモデルごとに改善)と比べて、はるかに緻密で優秀ですね。

では次に、電子制御をわかりやすく使って曲がってみましょうか。
いわゆる「やってはいけない」という操作を敢えてやってみましょう。
今度は少しオーバースピード気味に突っ込んで、前荷重が抜けた所でコジクリ回す様にハンドルを切って更にアクセルをオン!! 下手なFR乗りみたいな運転で、FFや普通の四駆なら間違いなくコースアウトです(笑)。
するとー、「グリグリグリ」と言った具合に強引に曲がってしまうではないですか!!
これはモロに電子制御を体感できます。人によっては気持ち悪い曲がり方だとか、乗せられてる感が強いと言うでしょうねえ。私もそう思います。
これは、教育上良くない車かもしれません……。初心者がいきなりこの車を運転すると、他の車に乗れなくなる可能性が有りますねえ。
また車を曲げることの何たるかがわからない人が乗ると、とても危険な車になるでしょう。何故ってAYCのキャパを超えた時が、事故る時ですから。
ただこれをもってランエボの曲がり方が気持ち悪いという表現は適切ではないかもしれません。
これは、「気持ち悪く曲がった」ではなく「普通なら事故るところを電子制御に助けられて曲がった」が正確かもしれませんね。
この様に、そもそも正しくない曲げ方をして曲がり方が気持ち悪いと言っている人が多いのではないでしょうか?? って思いました。
え?プロドライバーでもそう言っている人が多いって?? 確かにベストモータリングなどでプロドライバーが電子制御が上手く使えないとか、癖があるとか曲がらないとか良く言っていましたね。ですがその理由は簡単です。一流のプロドライバーほど、日本に古くからはびこる悪習、「クリッピングポイントまでブレーキを残す運転」をしているからです。

良くブレーキを残すことでフロントタイヤに荷重を掛けてアンダーを消すと言いますが、この車はブレーキを踏んでいると車体を安定させるためにACDがロックしているのです。因みにエボZ以降はブレーキ性能が超強烈ですが、それはACDが制動時にロックしてくれるからなんです。
つまり、ブレーキを残す運転はACDがロックしっぱなしなのでどうしても曲がりにくくなるわけです。
よってここは日本スタイルではなく、欧州スタイルのバランススロットルを使う運転に切り替えるだけでめっちゃ曲がるようになります。私の運転スタイルも基本的にこれですからね。

エボZの開発期と言えば、ちょうどWRCでトミー・マキネンが4連覇していた頃です。そしてWRCに出ていた車は、前後、センター、全てのデフが電子制御でした。そしてその制御は、徹底的にトミー・マキネンのドライブに最適化されていたそうです。何しろ他のドライバーが乗ると上手く操れないほどだったそうですから。ならば、WRCからフィードバックされてはじめて市販車に搭載されたエボZのアクティブセンターデフ(ACD)が、このマキネンのセッティングに近くてもおかしくはないでしょう。
これらの事情から、恐らくACDはマキネンが育った欧州スタイル向けに最適化されているのだと思われます。
 
さて、次にオーナーさんがACDの切り替えを試してくれとのこと。ACDにはターマーックモードの他に、グラベルモード(ダート道用)とスノーモード(雪道用)が有ります。
ターマーックモードは回頭性が高すぎてリアを滑らせる必要がないんですよね。リアをグリップさせつつ、且つ曲がる感じです。
でも俺はもっと、エボZを振り回したいんだ!!(笑)
ここは中途半端にグラベルではなく、スノーモードに切り替え。私の好きなアンダーステア方向に行くことを期待してもう一本ゴー!! 
一般にはACDの切り替え何て素人には殆ど体感できないし、プロでもわずかに変わる程度にしか体感でき無いなんて言われていましたねえ。実際はどうなのか??

確かにこれは、街乗りレベルでは殆ど体感できませんでした。交差点とかUターンとかで少し変わる程度でしょう。それでは、もう一度山で振り回してみましょうか。
なるほど。今度はやっちゃいけない操作ではあまり曲がってくれません。ではセオリー通りの運転で思いっきり行ってみましょうか。ハイスピード域から強いブレーキをドーン。大きなヨーを作ってリアタイヤをスライドさせてコーナーに入って行くと……、なんじゃこりゃー!!(笑)。
これ、体感できないとか言ってるのは誰じゃ? ぜんぜん違うじゃないですかあ。
それは綺麗な、美しいとも言えるような四輪スライド。今度はリアを食わせてAYCで曲がるのではなく、リアを完全に滑らせてヨーを維持し続ける動きで、どこまでーも、果てしなーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーく、コントロール出来る!! まるでグラベルを走っているような気分で、アンダーステアもオーバーステアもこの車にはない!!
アクセルだけで好きなヨーとラインをコントロール出来る!しかも滑りながらもACDの絶妙な介入でリアのトラクションが強烈で超速い!!まるで、トミー・マキネンが自分の体に乗り移った如し(笑)。一瞬フィンランド語が喋れそうな気分になった(笑)。
脳の中ではドーパミンとエンドロフィンが一斉噴出したのか、ハイになって終始大笑いしちまいました。こいつはタイヤかガソリンが無くなるまでずっと攻めていたい!!
このスノーモードには完全に私のツボを突かれました。この制御は俺のためにあるのか?ってほどに、私の運転スタイルにベストマッチなのです。ターマックモードも曲がってる途中でごまかしが効くので面白いですが、私なら真夏のドライ路面でもACDはスノーモードにするでしょう。(ちなみにACDがロックしていてもAYCが付いているので、アクセルを踏めば十分に旋回します。逆にブレーキに足を当ててるとACDはロックするわAYCは効かないわで、それはそれはアンダーでしょう)
 
このACD+AYCの味付けは芸術的とも言えるでしょう。これは、車を本当に知り尽くした人がセッティングしたのだろうと思いました。(やっぱりマキネンからのフィードバックか?)
こんなにコントロール性がいいと思った車は、ストリームかDYデミオ以来です。なにしろ、生まれて初めて運転する車ですよ? それも限界の高い四駆でいきなりこれが出来るとは……。(オーナーさんも車の性能に驚いていました(笑))
この車の醍醐味は、エンジンパワーではなく車をコントロールする喜びです。ハイテクWRカーを疑似体験できるものです。
 
 
総評して、私はなんだか三菱がかわいそうに思えてきました。こんな完璧な車を作ったのに、下手なドライバーから曲がり方が気持ち悪いだの曲がらないだの、素性が悪いだの言われて……。
世間の評価というのは、総じていい加減なものなのだと再確認しましたとさ。
 
最後に、、、ランエボってのは何かこう、“パッション”を持っているんですよね。これは初代からずっとそうだと思います。
そう言えばエボ[が出た時にディーラーに試乗しに行ったんですが、当時はインプレッサと比べて素性が悪いだの電子制御で曲がり方が不自然だの言われていたので、あまり期待せずに試乗したんですよね。
ところが…、 一発アクセルを踏み込んで三速まで入れたら頭の中にカーペンターズの“トップ・オブ・ザ・ワールド”が流れてきました(笑)。(これ、マジです)
 
ランエボを女性に例えるなら、情熱的で美人でスタイルも良いんだけど、ミニスカートにケバい化粧でとにかく目立つ。
男ウケし過ぎるがゆえに、あまりにベタでこういうタイプが好きだとは恥ずかしいやらダサいやらで言いにくい女性(笑)。
でも勇気を出して飛び込んでみてください。きっと周りの目なんてどうでも良くなりますよ(笑)。
 
エボにはそんな何かがあるんです。

以上


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