それぞれの未来



山田:「よし、2発目の左だ。 ここは、後半アンジュレーションが付いてるから、綺麗に前後輪が側溝に落ちるようにアングルをつけて進入だ。」

「ガーーーーー」

山田:「よしっ、決まった。 完全にインプを消したな。」

拓海:「け、消された…。でも一つ目の左で一瞬だけコーナリングの一端が見えた。何だあのコーナリングは?? 俺のコーナリングとは根本的に何かが違う。FFの事は良くわからないけど、あんなことができるのか?? 俺のコーナリングと何が違うんだ? くっ、考えるんだ!」


史裕:「涼介、もう後半なのに藤原が離されてるらしいぞ。 そろそろ教えてくれ、今回のバトルの作戦を。」

涼介:「…。今回のバトル、正直、藤原が相手のインテに勝てるとは思っていない。」

啓介:「はぁ??」

涼介:「考えても見ろ。 あいつは、ハチロクを走らせれば超人的だが、4駆にもターボにも全く慣れていない。 特に、ターボに付いては素人同然だ。」

啓介:「じゃあ何でバトルにインプレッサを??」

涼介:「プロジェクトDの活動は、この走りの聖地神奈川で最後だ。 その先あいつは俺たちから卒業して、一人で歩いていかなければならない。今回のバトルは、俺たちから卒業の為の試練なのさ。これからは、自分で考えて新しい車を走らせていくんだよ。
今までの感覚だけのドライビングから、考えるドライビングができるようになる。プロジェクトDの活動であいつに教えたかった事は、つまるところそれだ。そしてそれが、プロとアマチュアとの差でもある。」

啓介:「…。」

涼介:「そしてそれは、お前も同じ事だ、啓介。」

啓介:「ゴクリ。」


山田:「よし。この先は、正バンクのついた右二つ。そして1つ目のトンネルだ。 ここでインプのライトが見えなければ俺の勝ちだ。悪いが今回は勝ったな。。。 まあ、プライドを捨ててまでS2000じゃなく、FF車持ってきたんだからな。」

山田:「初黒星をつけるが悪く思わないでくれよ。 俺はお前みたいな奴が好きなんだ。ヘタにカートやってたり、サーキットなんかを走ってないところがな。」

拓海:「何が違うんだ、一体何が??」
拓海:「!! 入り口と出口?? こっちは4駆でトラクションで勝ってるはずなのに立ち上がりで煽られていた。 後半のパワースライドが多いってことか?? 出口を変えるとなると入り口も変わるはず。 よし、次の左でインテの真似をしてみるか !」

山田:「フフ。13歳から群馬で峠を運転か。お前は面白い奴だ。俺が最も尊敬する日本人プロドライバーを思い出すぜ。
その若さで、そのテクニックと切れた走り。 瞬間的に臨機応変にコースを攻略する才能。 峠、いや、山道を走るセンス。

藤原 拓海。お前はラリードライバーに向いている。

そして、ハイパワーFRを振り回すセオリーに忠実なFDのドライバー。こっちは、バトル好きでサーキットの匂いがプンプンする。

高橋 啓介。お前はレーシングドライバーに向いている。

GTドライバー、いや、努力によっては、フォーミュラーカーまで狙える逸材だ。」

山田:「モータースポーツを志す人間にとって、日本に生まれた事は必ずしも幸運とは言えない。
ラリーに至っては、特にそうだ。 競技とはいえ、車で公道をかっ飛ばす事に対して、日本人は違和感を消す事ができないんだよ。
WRCですら、北海道でコソコソやるしかない。 ヨーロッパと違って、日本にはその土壌がまだ育っていないんだ。 その手の本格的な学校なんてのも無いしなっ。

自分の意志でプロレーサーを目指そうと思った頃には、もう年齢的に手遅れなのさ。
18で免許取ったド素人が、これからレースデビューして練習したいからプロチームと契約してくれと言ったって無理な話だ。
親が子供の頃からカートやらサーキット走行やらを、金かけて強制的にやらせなければ、正規のルートでは年齢にテクニックが間に合わないのさ。
バレエやバイオリンじゃねえんだから、そんなの納得いかねえだろ??
だから、時間も金も無いプロレーサーを目指す連中は、違法や危険を承知で公道で練習するしかないのさ。
だが、それで成功すれば国民的英雄だ。 そんな大きな矛盾をはらんでいるのが日本のモータースポーツの世界なんだよ。 野球や、サッカーとは違うのさ。
フフフ。プロジェクトDかぁ。全く、面白い事考えやがる。」


大林:「ねえ、東山さん。 最近周りでサーキットが流行ってるけど、山田さんって結局サーキット好きなんですかねえ??」

東山:「うーん。走りたいって言ってるけど。 もし、安くて近くて、24時間やってて、車両保険が利くサーキットが有るなら毎日でも行くって言ってたなぁ(笑)。」

石山:「そんなのあったら、俺だって毎日行きますよ。」

大林:「それって、「公道」って言うんじゃないの??(笑) 」

東山:「結局、サーキットに行ったら「気持ち良く運転」じゃなくて、タイムが全てになっちまう。そうすると、当然金かけた奴が有利だ。その辺が、金銭的にせいぜい年に数回しか行けない俺たち一般人には難しいんだ。あの人、ああ見えて負けず嫌いだからな。自分で金のレギューレーション決めるのが難しいんだろう。まあ、俺もそうだけどね。」


山田:「まったく…。最近の三矢峠では、いい歳になってから、どいつもこいつもサーキットサーキットと。サーキットは確かに楽しいんだろう。合法だしねっ。だが、サーキットでは、時間と金を気にせず、好きなだけ他人の車で練習できるプロレーサーには絶対に勝てない。当たり前の事さ。」

山田:「だが正直言うと、俺は始めからプロレーサーに勝てないとは思っていない。だって、挑戦する前から諦めるなんて、おかしいだろ??
そう言えばこの間、あるモータージャーナリストがこう言っていた。「理論は、練習の近道だ」ってな。
それは、車に乗り始めたときからの、俺の持論だ。走り込み量では、環境に恵まれたプロドライバーには勝てるわけは無い。
だが理論は別だ。 全く金がかからないのが、「ドライビング理論を考える事」なんだ。 その一点についてのみが、俺がプロより勝る可能性が有る、唯一の糸口なのさ。
そして、走り込み量より理論の優位性を示せるステージとなるなら、サーキットよりも、プロとの走り込み量の差が少ない山の方が絶対に有利だ。俺がラリー好きなのは、それも理由なのかもしれない。。。」


山田:「よし、あと右二つ。左隅の砂利に気をつけてと。」

一つ目の右コーナーをバンクを利用して全開で曲がるインテグラ。

ギャラリー:「ウォーーー!! 何だ、あのインテのドライバーは! 頭おかしいんじゃないのか?? 左は壁で、右はダムだぜ。いくら何でも、突っ込みすぎだろ!!」
ギャラリー:「あれが公道でやることか??」

山田:「同じ車で、同じ技術のドライバーと、同じ速さで走るのなら、理にかなった運転をしているドライバーの方が安全マージンを多く取れる。公道において、理論ってのはつまるところは安全マージンなのさ。
俺の場合、最大でも80%。 これ以上はマージンを削らない。 フフ、もしも誰かがぶつけてもいい車と、ロールゲージ、ヘルメット、フルバケに4点以上のベルトを用意してくれて、「とにかく速く走れ」と言われれば、もっと速く走れるさ。
これでも俺はマージンをちゃんと取っているんだ。」


大林:「ねえ、東山さん。そう言えば、この間山田さんが言ってたインプレッサに対する思い入れって何だか知ってます??」

東山:「ああ、始めに衝撃を与えたのもそうだけど、何か車買うときにS2000買うかインプレッサ買うか迷ったらしいよ。」

大林:「え? 全然違う車のような気が…。」

福田弟:「一般に、S2はサーキット、インプはラリーってイメージですよねぇ?」

東山:「うん。でも山田さんは、実はサーキット派ではなくラリー派なんだってさ。」

大林:「え? じゃあなんでS2?(笑)。 FRのオープンカーでラリーなんてバカ、って言うかできるわけ無いじゃん。」

東山:「皆が無理だと言えば言うほど、やりたくなるのが山田さんの性格さ。
実際、4駆やFRターボやFFが多い峠で、敢えてS2000を選んだのは外し技だって言ってたよ。」

福田弟:「確かに、山田さんがS2000で来だした頃には、他にS2は一台も居なかったらしいですからねぇ。」

東山:「最近は増えてきたけどな。本人は嫌がってるけど…。」

福田弟:「ちなみに、東山さんはサーキット派ですよねえ??」

東山:「うーん。まあ、F1好きだしね。頑張れBARホンダ!!ってか。」 (作者注:この原稿は大分前に書かれたものです。 )

大林:「ホームコースが首都高ってだけで、やっぱサーキット派っぽいよ。」

東山:「確かに何度かサーキット走った事有るけど、今はもういいかなって感じ。何かサーキットでタイム削るのに熱くなれないし…。 首都高もいいけど、最近は山の楽しさに目覚めちゃったよ。別に俺達はレーサー目指してるわけじゃないしね。究極のところ、趣味だから楽しければいいんだよ。」

福田弟:「へー、でもなんかこの世界では、峠の延長にサーキットがあるのが当たり前みたいな風潮がありますよね。よく、「もう峠は卒業してサーキット」とか言ってる人居るし。」

東山:「ああ、ゲップが出るほど良く聞くね、そのセリフ(笑)。」
東山:「でも、峠の先には必ずしもサーキットが有るとは限らないんだよ。」

福田弟:「え? じゃあ、何があるんですか。」

東山:「山田さんの場合、峠の先に、また山が有るような気がする。あの人、そういう中途半端な常識みたいなの大っ嫌いだから。ひねくれてるからね(笑)。」

大林:「は? じゃあ今のまま変わらないって事??(笑) 」

東山:「いやいや、先って言ってるじゃん。俺は知っている。フフフ。」

福田弟:「あ、やっぱりラリーですか??」

東山:「うーん。ちょっと違うな。」

大林:「ナニナニ? 教えてー。」

東山:「はは、あの人面白いよ。 何と笑える事に、山田さんの最終的な夢はパイクスピークに出ることらしいよ(笑)。」

大林:「パ、パイクスピーク!!」

福田弟:「それはまた、飛んでますねぇ。」

大林:「いやいや、飛び過ぎだって…。」

東山:「まあ、どうせ趣味だから、夢見とけばいいんじゃない?(笑) 」

大林:「寝て見る夢だな…。」


福田弟:「でも東山さんは、サーキット派っぽいですよねえ。どうして冷めちゃったんですか??」

東山:「確かに、サーキットは対向車も警察もツブシも出なければ、人を跳ねる心配も無い。 安全で、合法で、健全だ。
フフ、だが安全と健全を求めるのなら、俺はテニスやゴルフでもやる。 結局の所、男ってのは、ギャンブルや格闘技が好きなのと同じ。
ともすれば怪我したり、身を滅ぼす危険がある、スレスレの危ない刺激を求める生き物なのさ。 この歳になって真面目に働いてると、こうやってアンダーグラウンドの世界で、たまにバカをやることでバランスを取ってるんだよ。

サーキットがメインで峠は遊びとか偉そうに言ってる奴らも俺に言わせれば皆同じ。 結局同じことやってるんだからな。
フフ、結局俺たちは、スレスレの危険をもてあそぶのが好きなキ○ガイ人種なのさ。ガハハハ。」
(作者注:嘘です。ハンドル握ったらマージンを取って安全運転を心がけましょう。 )

大林:「ひ、東山さんが壊れた…。」

福田弟:「俺、危険なの嫌…。」
 

続く・・・

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