ドライビングセンスの正体とは?(後編)


次に、その車の反応スピードを考えてみましょうか。
色んな車の反応速度を並べてみると、

バスやトラック > 乗用車 > スポーツカー > チューニングカー > GTカーやレーシングカー > カートやフォーミュラーカー

といった具合でしょうか。

右に行くほど、車の反応スピードは速くなります。
一般に言う、いわゆる、レスポンスが良く、クイックになるという感じです。
よって、同じ速度ならば、右に行くほど未来の予測は短い時間だけで良いことになります。
例えば、100Km/hからフル制動する時は、バスやトラックならかなり時間も距離も必要ですが、F1ならば時間も距離も、はるかに短く、あっという間に止まります。

と言う事は、同じ速度ならば、バスよりもF1の方が、予測能力は必要ない事になりますね。
しかし通常は、当然右に行くほどスピードは速く走ります。 ということは、右に行くほど、同じ長さの時間、例えば1秒先を予測するならば、はるかに手前の位置から、つまり長い距離を予測する必要があることになりますね。
また、右に行くほど車の反応スピードは速くなるので、人間の反応スピードを上回る事も出てくるでしょう。
結果、スピンなどの挙動を乱すスピードも、反応スピードと同じく速くなって行きます。
そうすると、高い人間の反応スピードと、より高い予測能力が必要になってきますね。

これを分かりやすく説明するために、 ちょっと面白い例を考えてみましたので、書いてみましょう。
それは名付けて、「1秒遅れ車」。
これは、クイックでピーキーな車に、コンピューター(電子制御)で、ハンドル、アクセル、ブレーキ、の全ての動作が、ドライバーが操作してから1秒遅れて行われるような車です。
ハンドルを切れば、1秒後に切れ始めます。ブレーキを踏めば、1秒後にブレーキが効き始めます。アクセルを踏めば、1秒後にアクセルスロットルが開きます。
この車を運転するのが、いかに難しいか想像できますよね?

例えばコーナーに入り、ハンドルを切ってもタイヤは1秒後にしか切れません。 まるで船の如しです。
そうなると 恐らくあせって切り足すでしょう。
しかし切り足した頃に、タイヤが実際に切れ始め、そして切り足した事で切れすぎるでしょうね。
切りすぎれば、リアタイヤが滑ってスピン挙動に入るでしょう。
慌ててハンドルを戻しても1秒後にしか戻りません。
アクセルを踏んで、後ろ荷重にしようとしても1秒後にしかアクセルスロットルは開きません。
万が一スピンを免れたとしても、今度はカウンターステアのお釣りを貰って、真っ直ぐ行こうとします。
ブレーキを踏んでも、1秒後にしか制動が始まりません。
こんなに難しい車は無いですね(笑)。

鋭い人は分かったかもしれませんが、 この車を運転するのに必要なのは、1秒先を完璧に予測する能力です。
もう 言いたい事が分かったと思います。 この1秒は極端にしても、車は僅かに遅れて反応するのです。
それを、予測しないと速く、正確に走らせることは不可能です。
反射神経に頼っているようでは、ある所から先は不可能なわけです。
よって、車の挙動変化が起きる少なくとも0.3秒以上前に、すでにドライバーがスポーツで言う、「モーション」に入っていなければなりません。

この、運転における「モーション」という言葉は私が勝手に名付けた物ですが、今後良く出てくると思います。
これは、動作に半分入っているような状態で、バッティングで例えると、重心を移しながらバットが動き出す状態ですかね。
ボールなら、まだスイングを中止して見逃せる状態です。プロ野球のバッターを見ていると良く分かると思います。
車のハンドルで言うと、「ヨイショ」っと切る時の、「ヨ」の状態です(笑)。
厳密には、少し切り始めている状態ですね。

分かりやすい例として、例えばリアタイヤがスライドしてカウンターステアを当てる状況を考えてみましょう。
この時に、タイヤが滑ってからカウンターステアを切っているようでは、全く予測できておらず失敗です。
実際に、ドライバーが滑ったのを感知してからハンドルを切るまでに時間が掛かり、ハンドルを切ってから、色んな機械を通し、ブッシュがヨレて、タイヤがヨレて、実際にタイヤが切れるまでに時間が掛かり、バネが縮みダンパーが縮み、実際にフロントタイヤ のグリップが発生するまでには、更に時間が掛かります。
これでは、大きなタイムロスになります。 ラインを外したり、最悪、スピンしますね。

よって、この位ハンドルを切った状態でこの位アクセルを空けると、この路面状況なら、この位リアタイヤが滑るはずだから、アクセルを踏むと同時に、あらかじめこの位カウンターステアを切っておこうと 、カウンターステアを切るモーションに入っていなければなりません。
それがドンピシャ当たれば、そのままカウンターステアを切り続けて成功です。
(余談ですが、これがドンピシャ決まると最高に気持ちがいい物です)
思っていたほどリアタイヤが滑らばければ、予測失敗ですが、まだモーションに入っているだけなので切るのを止めればいいだけです。バッティングで例えると、バットを振りかけて、ボールだから見送った、と言う状態です。


そしてこの予測能力は、訓練によって高める事が出来ます。 ただ、ちゃんと意識して練習をしないと高められないでしょう。
難しそうに聞こえるかもしれませんが、例えば初めて走るコースと、1000本走った事があるコースでは、後者の方がはるかに速く、上手く走れますよね?
これは、何回も走る事により、次はどっちに曲がっているからこっちに寄っておこうとか、どこでブレーキを踏めばどこで止まるか、ここはノーブレーキで行けるか、行けないか、等の知識がつく事により、無意識に予測して走っているからです。
これは誰でも行っている事ですね。

ただ、それをもっと高いレベルで、緻密に細かく行えるかどうかが、もっと速く走れる人と、そうでない人との違いです。


これらを まとめると、ドライビングセンスがズバ抜けて高い人とは、「予測能力がズバ抜けて正確で、且つズバ抜けて長い時間の未来を予測でき、且つ体の反応速度が速い人」、だと 言えるでしょう。

この話は理解しておくと、将来きっと役に立つと思います。

ちなみに体の反応速度の速さは、主に予測が外れた時に必要になると考えています。
よって、保険みたいなものでしょうか。
仮に100%の確率で完璧に先を予測できて、操作(モーション)に入っていれば、ドライバーの反射神経や、反応速度は殆ど必要ありません。(想定外の挙動が起きないので)

これは個人的な考えですが、ドライバーの反応速度、いわゆる瞬間的な判断力、爆発的な集中力、動体視力、瞬発的な筋力などでは、日本人は狩猟民族と比べ、あまり優れていないと考えています。
よって、敢えてそこで勝負する必要はないでしょう。
それよりも、的中率がズバ抜けて高い予測力で勝負した方が良いと考えています。
(もちろん、反応速度を上げる訓練もします。全くお金がかからず、非常に効果が有る方法を書く予定です。)

そして長く、且つ正確に先を予測するためには、どうしても車の知識と、その車の動きを支配している物理法則を学ぶ必要があるわけです。
もちろん、物理学の知識が無くてもある程度までは、感覚的に予測できるでしょう。
しかし、予測力に関して言えば、長さ、正確さの何れにおいても、はっきり言って物理学の知識がある人には絶対に勝てません。
私が、物理学にこだわる理由の一つはこれです。

逆に言えば、それらの知識を身に付ければ、誰でも「ドライビングセンスがいい人」になれるわけです。


さて、 ここでちょっと簡単なテストをしてみます。

例えば、夜の山道を車で走っているとしましょう。
その時に、あなたはライトをハイビームにしていますか?ロービームにしていますか?
ロービームのまま走っている人は、一つ先のコーナーしか見ていない証拠です。当然、その先の予測などしようがありません。目の前にコーナーが来たらブレーキを踏んで 、ハンドルを切って曲がる、といった感じの「行き当たりばったりドライビング」と私が呼んでいる物をしていることが、予想されます。
これは将棋に例えれば、一手先しか考えていないのと同じです。 プロ棋士は五十手先、百手先を考えているのにです。

スポーツ走行は、コーナーを攻めるのではありません。コースを攻めるのです。
2個先、3個先のコーナーを見て逆算して考えて、一個目のコーナーはどう攻めるかを考えて入って、クリアするのです。

この、「行き当たりばったりドライビング」をしているという自覚のある人は、ちょっと考え方を変えるだけで、いきなりグンと速く、上手くなるはずです。
「行き当たりばったりドライビング」で、 ただ単に何度も走っているだけでは、コースと車に慣れた分、速くなるだけです。
傍から見れば、同じ走り方をしているだけで、そこから先の伸びしろは有りません。
一方、上記の優れた予測能力がある人は、初めて乗る車で、初めて走るコースでも、ちょっと走ればいきなり速く走れます。

いかに、この予測能力が重要かが分かると思います。


さて、ドライビングセンスの正体が分かったところで、あなたも、「ドライビングセンスがいい人」になってみましょう!!


Back        Top