ドライビングセンスの正体とは?(前編)


ドライバーには、センスが良いとか、悪いとか言う言葉が良く使われますね。
確かに、同じ練習をしていて、同じ理論を習っていても、上達するのが速い人も居れば遅い人も居ます。
そして、トップドライバーになれる人もいれば、なれない人もいますね。
それを一般に、「ドライビングセンス」と言っているようですね。

もっと言えば、ドライビングの才能、能力の違いですか。
その今まで漠然と言われていた、「ドライビングセンス」って言うやつが、一体何なのかをちょっと論理的に考えてみました。
それがわかれば、誰でも「ドライビングセンス」が良い人になれるはずです。
そしてセンスを上げて、正しい方向へ練習をすれば、誰でも運転が上手く、速くなることも出来るでしょう。

それでは「ドライビングセンス」とは論理的に何なのか?
実はその答えは、意外と単純な物だという事がわかります。
一言でいうと、私はドライビングセンスが高い人とは、ズバリ、
「予測能力が高い人」
だと考えます。

実はこの能力は、運転だけではなく、あらゆるスポーツでも、格闘技でも、囲碁や将棋、ビリヤードなどでも、全てトップの選手が持っているものです。

人間の体は、目で物を見てから、体が反応して動くまで、平均で0.3秒掛かります。
それは、M.シューマッハだろうが、ハミルトンだろうが、イチローだろうが、あなただろうが殆ど同じです。
反射神経という言葉がありますが、この医学的な反応速度に限って言えば、実はそれ程大差ないわけです。
しかしながら、現実の世界では、反射神経、反応速度は人によって大きく違いますね。

一般の人は、150Km/hのピッチャーの球を打ち返すことは出来ないし、200Km/hのテニスのサーブを打ち返すことも、バレーボールのスパイクを受けることも出来ません。プロボクサーのパンチを避ける事も出来ないでしょう。
なぜなら、これらの殆どは、人間の反応速度である、0.3秒以内に終わるからです。

訓練を積めば、ある程度は反応速度を早める事が出来るでしょう。しかしながら、目で見たものが、体の中の神経を電気信号で伝わり、脳でそれを処理し、そして運動神経で筋肉を動かすまでには、必ずある程度の時間が掛かります。
よって反応速度には、訓練を積んでも必ず限界があるわけです。

しかしながら、トップレベルのスポーツ選手たちは、実際に150Km/hの球を打ち返したり、サーブを打ち返したり、パンチを避けたりしています。反射神経だけでは反応できるはずのないスピードで、反応しているのです。
この理由こそが正に、予測能力です。

例えば、プロ野球のトップレベルのバッターは、次に来るピッチャーの球の、球種とコースが判っていれば、8割以上の確率でヒットを打つ事が出来るそうです。
実は、テニスにしても、ボクシングにしても、プロは向かってくる球を見るより前に、相手のモーションを読んでいるのです。
そのモーションから、球やパンチの軌道などを予測し、自分が反応できる所まで、あらかじめ体を持って行っているわけです。

勿論、予測なので100%の確率で当たるわけではありません。
だから、ピッチャーとバッターの駆け引きがあるわけだし、プロボクサーがパンチをもらう事も有るわけです。
プロボクシングなんか見ていると良くわかりますよね。パンチを打つフェイントをすれば、相手は避けますよね。 実際には、パンチを出していないのに。
もしも、 パンチが自分の顔面に向かって来ているのに気づいてから、避けようとしても遅いのです。
だから、相手のモーションを見て避けているわけですね。
人間の反射神経の限界と言われているスポーツ、「卓球」でも、ラケットの裏と表で色を変える事がルールで決められていますね。 これは、球を見ているのではなく、相手のラケットやモーションを見ている証拠です。

さて、勘のいい人はもう分かったかもしれませんね。
実は車の運転も全く同じなんです。

車を運転するという事は、先を予測する事と同意です。
それは、たとえ街乗りで交差点を曲がる時でもそうなのです。(恐らく誰でも、教習所で始めて車を運転した時には、交差点も上手く曲がれなかったでしょう?)
ブレーキでスピードを落として、ハンドルをこれくらい切ると、対向車線に飛び出さずに曲がるなーっ、と無意識のうちに予測して運転をしているんです。
これは、運転をする人ならば、お買い物へ行くおばちゃんでもやっている事ですね。
スポーツ走行では、これが高度なレベルで求められるだけで、やっている事は実は同じです。
同じですが、この予測能力の高さの違いが、いわゆる能力の高い、速いドライバーと、そうでないドライバーの差でしょう。

車のスピードが上がれば、当然反応スピードにも速さが求められるようになり、そしてすぐに、反射神経では間に合わない0.3秒を切る反応速度を求められるようになります。
そして車が、他のスポーツと1番違うのは、人間の反応速度の他に、「車の反応速度」があると言う所です。
簡単に言うと、例えばハンドルを切ってから曲がり始めるまでの時間、ブレーキを踏んでから止まるまでの時間、アクセルを踏んでから加速が始まるまでの時間などです。
よって自分の体を動かすのとは違い、車が動くまでには、人間の反応速度である0.3秒以上の反応時間が掛かるのです。
つまりドライバーは、自分の体の反応時間プラス、車の反応時間の分、先を読む必要があるわけです。
だから他のスポーツよりも一層、先を読む能力、予測能力が必要になるのです。
自分の体を使うスポーツが、0.3秒以上先を予測できれば良いのに対し、車はもっとずっと先を予測しないといけないのですから。

それではかなり長い時間を先読みしないといけないから大変だなー、と思うかもしれませんが、他の乗り物はもっと大変です。
例えば船。イージス艦が、漁船と衝突する事故がありましがた、あれは12秒前に衝突する事が判っていたらしいですねぇ。
それでもどうしようもなかったわけです。
つまり大きな船は、12秒あっても避ける事が出来ないんです。
ぶつかるー!と判ってから、12秒間も待ち時間があるわけですね。

タイタニックが、氷山を避けれなかったのも、恐らく30秒以上前に衝突コースに入っている事が判っていても、避ける事も止まる事も出来なかったわけですね。 衝突すると判っていて、30秒以上ただ待つだけです。
30秒前に衝突する事が判っていて、止まる事も避ける事も出来ないなんて、車では考えられないですね。
それぐらい船は、反応速度が遅い、レスポンスが悪い乗り物なんです。
乗用車がダルイとか、レスポンスが悪いとか言っている場合ではないですね(笑)。

さて、何が言いたいかというと、船を操縦するには、車よりもずっと先を予測する能力が必要となるわけです。
逆に、人間の体の反射神経は、ほとんどと言っていいほど必要ありませんね。
0.3秒なんて、30秒と比べれば誤差みたいなものです。

しかし車というのは、この人間の反応スピードと、乗り物の反応スピードが近い、面白い乗り物なわけです。
よって反射神経と、予測能力の、両方の能力が必要とされるわけです。

続く…


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