ランエボとインプレッサの小話  その4



次に水平対向エンジンは縦置きなのでレイアウトや重量バランスが良いというイメージが有ると思いますが、実は前置きの縦置きエンジンと相性が良いのはFR車です。

もうわかりますね? 四輪駆動であるインプレッサは、フロントにもドライブシャフトが存在します。
エンジンが縦置きだと、その後ろにミッション&トランスファーが来るので、前輪に繋がるドライブシャフトを考慮するとエンジンの位置がどうしても前に押し出されてしまうのですよ。
つまり、いわゆる「フロントのオーバーハングが重くなる」のです。
実際にエンジンルームを見てみるとエンジンがホイールベースから完全に飛び出ているのが良くわかると思います。

つまりエンジンの重心は低いかもしれませんが、車体のヨー慣性モーメントは構造上どうしても大きくなるのです。
(対するランエボは横置きのトランスアクスルなので、それほど前に飛び出ていない)
 
そこまでしてインプレッサが手に入れたものが“低重心”なのです。
まあインタークーラーが重心を上げていると言っても、エンジンと比べれば軽いのでこの言葉に偽りは無いでしょう。

 
さて、対するランエボの4G63はとてもスタンダードな形式のエンジンで、これらインプレッサが抱える多くの問題を持っていません。
直列4気筒の鋳鉄エンジンは確かに重いし重心も特に低いわけではなく、平均的でしょう。
ですが工業製品としての、“エンジン”という自動車部品の性能に限って言えば、これはとても優秀なのです。

ランエボWから搭載されているツインスクロールターボは、インプレッサがGDBのC型が出た2003年になってはじめて搭載したもので、ランエボから遅れること7年後のことです。
声も高らかにカタログに書いてありましたが、ランエボにはとっくの昔から搭載されていたのですね。


ランエボのエンジンは前置きインタークーラー、前置きタービン(エボ10を除く)と極めて標準的なため、インタークーラーもよく冷えるしタービンもよく冷えます。
結果熱ダレも少なく、長時間性能を維持し続けますし、ブーストアップなどでパワーを上げていっても問題はあまり生じません。

更にオイルクーラーも全モデル標準搭載で、インタークーラーウォータースプレーも同じく全モデル標準搭載です。
これらはガチで速く走ろうとすると、本当に助かる装備です。
三菱は本当に必要なもの、効果のあるものが分かりきっていて、ピンポイントでツボを抑えていると思います。

実際にランエボは真夏でもあまり熱ダレしません。「ターボ車と言えば熱ダレする」というイメージですが、これには驚きます。
これはボンネットに開いているダクトも恐らく影響しているのでしょうね。
ダクトのおかげで、アイドリング中や低速時にも熱が上に逃げてくれます。
昼間ならば、停車時にボンネットダクトからモワッと空へ舞う陽炎(かげろう)越しに、揺らいだ景色を見ることができるでしょう。
これは“特別な車に乗っている感”が得られ、演出として考えてもなかなかのものです。
 
また4G63はロングストロークの低回転型と言われていますが、EJ20がショートストローク過ぎるだけで、4G63は実はバランス型のエンジンです。
ストロークは88mmですが、超高回転型の名機と言われた初代インテグラタイプRのB18C(1800cc)のストロークが87.2mmだという事を知れば、それほどロングストロークでもないと分かるでしょう。
実際に4G63はラッシュアジャスター(タペット調整を自動でしてくれる装置)を使っているので、確かに高回転まで回すとトラブル可能性があるかもしれませんが、東名製の部品などでラッシュアジャスターをキャンセルすれば軽く8000回転以上回ります。
(コストもそれほどかからない)

つまり上の回転はEJ20と変わらない上に、ストロークがEJ20よりも13mmも長いので、低回転ではズッシリとトルクが出てくれます。 最大トルク発生ポイントはEJ20と比較して、およそ1000回転も低回転で出るので、つまりパワーバンドがおよそ1000回転も広いのです。
これはとても大きなアドバンテージとなるでしょう。
 
また インプレッサがGDBのC型でやっとエキマニを等長等爆にしてタービンのレスポンスを上げましたが、4G63は始めから超ショートのエキマニがタービンに繋がっているので、レスポンスは最高です。
インプレッサのエキマニは構造上とても長く重くなりますね。 対して ランエボのエキマニは軽くコンパクトに出来ます。
つまりエンジンブロック自体は重いですが、ランエボのエキマニは軽いのです。
 
 
さて、では次にパワーユニットのチューニングのしやすさについて考えてみましょうか。
 
ターボ車のチューニングで最も手軽でメジャーなものといえば、何と言っても一般に言うところの“ブーストアップ”でしょう。
これは必ずしもブーストを上げることではなく、一般に吸排気系とコンピューターのチューニング(交換)ですね。
この時にブーストコントローラーを付けることも一般的でしょう。

NAエンジンと違い、ターボエンジンはこれらのチューニングだけで、ポンッと数十馬力上がってしまうことも有ります。
もちろんタービン交換や排気量アップなどをすれば両車とも遥かに大きなパワーを得られますが、これらは補機類を含めお金が相当かかるし、エンジンの寿命を極端に縮めるし売る時にも明らかに改造車になるので、まあ一般的ではないでしょう。

そこでここでは、タービンと排気量は変更しないブーストアップチューンについて考えてみましょうか。  


続く……


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