ランエボとインプレッサの小話  その2


さて、、、
そんないいとこだらけのようなインプレッサのEJ20ですが、よくよく見ると色んなアラが見えてきます。

まずアルミブロックはノッキングを吸収しやすいため、ノックセンサーがノッキングを正確に拾わないことが有るので、ECUのセッティングが難しいそうです。
まあそれは何とか技術で詰められるとして、私が思う最大の問題は、ボア・ストローク比ですね。

よく、EJ20はショートストローク型で4G63はロングストローク型なんて言われていますが、正確には違います。
4G63はスクエアに近い平均的なボア・ストローク比で、EJ20が“超ショートストローク”なのです。
EJ20のストロークは2リッターながら実に75mm。 これは1600ccクラスのストロークなのです。

いえ、初代シビックタイプR(EK9)に搭載された超高回転型テンロクエンジンのB16Bでさえ、ストロークは77.4mmあります。
よってEJ20は異様なショートストロークだと言うべきでしょう。

そして排気量は2リッター有るのですから、当然ボアがでかくなります。 そのボアは92mm
うーん、これは3.2リッターのNSXのボアが90mmだと言えば大きさが分かるでしょうか。
つまりボアはポルシェの水平対向6気筒エンジン並みの最大級なのです。

つまり2リッター4気筒エンジンとしては相当アンバランスだといえるでしょう。
超ショートストロークであること自体は別に悪いことではありません
F1のエンジンの様な超高回転型エンジンは皆そういった設計ですからね。
動画でも言いましたが、ショートストロークのエンジンは低中回転でトルクが出しにくい代わりにピストンスピードが遅いため高回転まで回すことが出来ます
これは一般にパワー型エンジンと言われていて、高回転まで回すことでパワーを出す特性となります。
パワー=回転数×トルク×定数

ホンダのVTECエンジンなど、2リッター以下のNAハイパワーエンジンは高回転でパワーを出すものが多いですね。
高回転型にするのは、トルクが出しにくい低排気量NAエンジンでパワーを出すための定石です。
 

ただそのエンジンがターボだったらどうでしょう?
ターボエンジンで高回転型というのは、市販車では設定がとても難しくなります。
GT-RのR26Bなんかは高回転型と言われていますが、あっちはツインターボですし排気量が2600ccありますからね。
では2リッターのエンジンでシングルターボで、超ショートストロークエンジンというのはどうなんでしょうねえ?
普通に考えると扱いにくく、性能を出しにくい、と予想されます。
 
ターボエンジンのタービンというのはとてもシビアで、高回転でブーストを掛けようと思うと、かなり大きなタービンにしないとタービンの回転数が上がりすぎてパワーが出ないばかりか、下手をすると壊れてしまいます。
よって高回転重視のEJ20には大きめのタービンを付ける必要がありますが、そうなるとレスポンスが悪いしそもそも低中回転域でブーストが掛かってくれません。
要するにより一層下のトルクがスカスカになって、高回転でいきなりトルクが出る“ドッカンターボ”になりがちなのです。

が〜、高回転でトルクを出すと(当時)自主規制の280馬力を超えてしまいますね。 まあ規制がなくても、下がスカスカだと普段乗りが不便なので市販車ではあまり高回転寄りにも出来ません。
つまりスバルは本来は超高回転型の物理特性を持つエンジンで、無理やり低中回転でパワーを出すエンジンに仕上げているわけですね。
では、アイドリング回転数や街乗りを考慮する必要のない競技車両では、このエンジンは有利でしょうか?
 
残念ながらそうとも言えません。 特に致命的なのが(本業の)WRCです。
WRCなどのラリー競技では、リストリクターと呼ばれる吸気制限装置をつけることが義務付けられています。
吸気を制限するということは、空気をいっぱい吸い込む必要がある高回転でパワーを出せないということです。
(WRCでは大体300馬力程度が限度のようです)

リストリクターを付けると高回転でパワーを出す事は不可能なため、低中回転で巨大なトルクを出せるエンジンが圧倒的に有利となるはずです。
よってWRCには高回転型ターボエンジンは全く向いていません。
EJ20はある意味で、全くWRCに向いていないエンジンということになるでしょう。

高回転型エンジンにも低中回転型エンジンにも優劣はなく、どっちのエンジンもアプローチとしては“あり”です。
ですがEJ20に関しては、「低回転を重視したいのか、高回転を重視したいのか、どっちなんだ?」という突っ込みを入れなくなるエンジンなのですよ。
言ってみれば下痢止めと下剤を同時に飲むような、ある意味極端なエンジンなのです。
(と言いつつも、スバルは頑張ってWRカーでは低回転で大きなトルクを出していますが、やはり下のトルク特性は4G63の方が上だったみたいですね)  


続く……


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