ブレーキロックには2種類ある


さて、ブレーキングの話をするためには、ロックの話は避けて通れませんね。
ブレーキをロックさせてしまうと、制動距離が伸びるのは当たり前とされていますね。
実際に実験してみると、確かに伸びます。

しかし、私はブレーキロックを2種類に分けて考えています。
一つは、フルロック。 もう一つはハーフロックと勝手に私が呼んでいる物です。
フルロックは、車は動いているのにタイヤが完全に静止している状態です。
まあ、普通はこれをロックと言いますね。 これは一気に路面とのμが落ちて、スリップ状態になります。
雪道などはもちろん、舗装路でも全く止まらなくなるので、ABSの様な装置が入っている訳ですね。

では、ブレーキロックはこれだけでしょうか?

私はもう一つの物を、むしろ重要視しています。 それが「ハーフロック」です。

私の言うハーフロックとは、車は動いていて、タイヤが完全には静止していないが、速度に対して少ない回転数になって滑っている状態です。
例えば、車が100Km/hで走っているのに、タイヤの回転数は80Km/hの時の回転数の状態などです。
もっと簡単に例を上げて言うと、例えばタイヤの外径が1[m]だとします。これが、100回転すれば100[m]走る事になりますねぇ。
ところがブレーキを踏んで、100[m]走るのに、80回転しかしていない状態です。
要するに、「ちょっと滑っている」状態ですね。

私はこのハーフロックの状態が、一番奥が深く、上手く使う事で短く止める事が出来ると考えています。
何故ならば、「タイヤのグリップを超えたグリップを出す」に書いた 通り(こちらを先に読んで下さいね)、完全にタイヤが静止して滑ってしまうより、また完全にグリップしてしまうよりも、大きな減速Gが出せるはずだと考えるからです。
ブレーキングと言うのは加速の逆であり、「タイヤのグリップを超えたグリップを出す」に書いた、少しホイールスピンさせて大きなグリップを出すのと 、実は相対的に全く同じ事だからです。

つまり方向が逆なだけで、「タイヤのグリップを超えたグリップを出す」と同じように、道路に対して、タイヤがスピンしている訳ですね。(分かりますよね?)
ただこれも加速の話と同じように、最適な回転数、滑り量が有るはずです。
それは、車重やタイヤの太さやグリップ力によって変わるので、実験してみなければ厳密には分かりません。
例えば、100Km/hで走っている車で最大の減速Gを出すためには、タイヤの回転速度は80Km/h相当が最適なのか、はたまた、30Km/h相当が 最適なのかは、実験してみないと判りません。
もしかしたら、1Km/h相当など、止まってさえいなければ、回転が遅いほど良いのかもしれません。


更に、4駆でバックギアに入れてホイールスピンさせるともっと強い減速Gで止まるのでは?と考えた人は、鋭いですね。
実は私はこれは、子供の頃にラジコンでやったことが有りますが、良く止まりました。
もちろん車でやると、一発でミッションが壊れるのでダメですが、実はこの考えを減速の手段として生かす方法は有ります。
それについては、またどこかに書くつもりです。

私は車の素人なので良く知りませんが、ABSの性能の良し悪しは、恐らくこの回転数のズレの、どこでロックと判定するかの設計も、重要な要素ではないかと考えています。
つまり、タイヤが完全に静止したらどのABSでも当然ロックと判定して効きますが、タイヤが回っていても実際の速度よりも少ない回転数ならば、おそらくロックと判定する事も有るでしょう。(もしABSがそれを判定してなければ、私が開発したいです(笑))

まあ、ここは物理の話なので電子制御のABSの話は置いておいて、「タイヤのグリップを超えたグリップを出す」を理解すれば、ブレーキングはこのハーフロックの状態が、一番大きな制動力を発揮できるはずです。
そしてその滑り量も、加速時同様に最適値が有るはずなので、そこを見つけられば一番大きな制動力を発揮できるでしょう。
ただ、そこを見つけるためには実験する、つまり実際に走ってブレーキを踏んでやってみるしかありませんね。

個人的な経験だと、タイヤが「キューッ」と鳴くあたりが一番強い減速Gを感じます。
恐らく、タイヤの回転数は、かなりフルロックに近いハーフロックだと思います。
ただ難しいのは、ここを維持する事です。
フルロックに近いと言う事は、すぐにフルロックになりやすいので、フルロックにならない様に上手くブレーキをコントロールする必要が有ります。

フルロックになると、どんなABSでも介入してくるので、制動距離は伸びます。
私の考えでは、ABSはこのハーフロック状態の維持が苦手で、基本的にブレーキはオンかオフです。
そのオンとオフを非常に短い間隔で行う事で、制動距離を短くしようというアプローチだと思います。
ちょっと、デジタルなイメージのブレーキングですねぇ。

ただ、オンかオフしかなくても、それを1秒間に数十回繰り返すことで、アナログ的なハーフロックの状態に近付けようという物だと理解しています。
(余談ですが、CDやDVDなどのデジタル機器は、多くのオンとオフを超短時間に繰り返すことで、アナログ的な音を出している)

ただ知っての通り、ABSに完全に任せてしまうと、制動距離は「ガガガー」っと伸びますよね。
私はそうなるとペダルを瞬間的に離して、ABSをリセットしますが…(まあ、その話の詳細はドラテク編に)。
やはり、まだ現在のABSは、最適なハーフロックには勝てないのでしょう。


いやはや、ブレーキングって本当に奥が深いですねぇ。
私はこの最適なタイヤのスピン量と、制動Gの話は今までに見た事が有りません。
最適なブレーキングを考えて計算していたら、たまたま途中で気がついた物です。
何故ならこの結論なくしては、最適なブレーキングの計算式が作れないからです。

今回の結論では、この一番強い減速Gを出せる状態をずっとキープできるブレーキングが、一番短く止まれるブレーキングという事になるでしょう。

それでは一体どのようにブレーキペダルを踏めば、それが可能となるのか。
これからじっくり考えてみましょう。



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