市販車のブレーキチューニングについて考える(後編)


さて、レーシングカーにはブレーキバランサーが付いていて、更にコックピットにバランスを変えるコントローラが付いていましたが、さすがに市販車で、ここまで真似をするのは難しいですね。
ただ運転中に変えられなくとも、前輪に対して、後輪のブレーキを強く効くようにする方法を考える必要が有ります。

具体的には、ブレーキバランサーを付けるのがベストでしょうが、ABSが使えなくなったり、不便な事が起きることもあるので、ブレーキパッドで効きを調整する方法もメジャーです。

一つ、パッドで調整する方法の、例を上げてみましょう。
今回は、フロントブレーキに、リアよりも効かないブレーキパッドを入れてみます。
仮に、10Kg のペダルの踏力でフロントタイヤがロックするとすると、リアはいかなる時も、10Kg 以上の踏力のブレーキの力は掛けられない事になります。(ABS付きなら、掛からない)
しかしながら、フロントのブレーキパッドの効きを落として、フロントタイヤをロックするのに、12Kg の踏力が必要となるとすると、フロントタイヤのロック時に、リアのブレーキの踏力も12Kg になる事になります。
よって、これにより相対的にリアのブレーキ配分が大きくなる訳です。

ただ、ブレーキパッドは温度によってμの特性が大きく変わるので、出来れば後輪のキャリパーやローターで調整するのがベストでしょう。

そして、この時に気を付けなければならないのが、ABSが付いている車です。
その前に、少しABSについて勉強する必要が有りますね。

突然ですが、ABSはどうやって車のタイヤがロックしているのか判別していると思いますか??
もしも、ブレーキを踏んでタイヤが止まっただけでロックしていると判断するのでは、信号でブレーキを踏んで停止中に、ABSが効きっぱなしのはずです。
おそらく、車の速度は出ているのに、タイヤが止まっていればロックしていると判断できますね。

でわ、ABSはどうやって自分の車の速度を調べているのでしょうか?
実はABS装着車には、高性能GPSが付いていて、GPSで自分の車の速度を感知し、それとタイヤの回転のズレからロックを判断している、、、わけはないですね(笑)。
将来そんな時代が来るかもしれませんが、現在の技術では無理です。

ABSは、4輪の回転数のズレを見ているのです。
例えば、後輪タイヤは回転しているのに、フロントタイヤが止まっていれば、前輪がロックしている、といった具合です。
ブレーキング時に4輪のうちの、最大回転数の物が現在の車速だと判断しているのでしょう。

鋭い人は、ここである事に気付くと思います。
もしも前編に書いたように、4輪が同時にロックしたらどうなるのか??
そうなると車は、自分が停車していると判断するのではないかと。

実は、これについては、私は実際に経験した事が有ります。
真冬の路面温度が低い時に、高速域からフルブレーキを踏んだら、瞬時にエンストしました。
この状況が指す意味が分かりますか?
スピードは全く落ちていないのに、スピードメーターは0Km/hを表示し、ABSは全く働きません。
つまり、ABSは車が停車していると判断している訳です。スピードが全く落ちていないのにもかかわらずです!!
この時は、落ち着いてブレーキを一旦離したら、タイヤが回転し始めてエンジンが掛かりました。(エンジンの押し掛け状態ですね)
ブレーキを一旦離すと、ABSもリセットされるので、その後は丁寧にブレーキを踏んで止まりましたが、肝を冷やしました。

つまり何が言いたいかと言うと、ABSが付いている車では、ブレーキは必ず前輪か後輪かの、どちらかが先にロックするようにする必要があり、同時にロックさせるセッティングをしてはならない(ABSが働かない)という事です。
これも市販車が、前輪がかなり先にロックするようにセッティングしている理由でしょう。

よって、ブレーキバランスは、少しだけ前輪が先にロックするようなセッティングにするのがベストでしょう。
後輪が先にロックするのは、やはりスピン挙動になりやすく、扱いにくいので避けた方がいいでしょう。
まあ、ABS が付いていても、ABSに頼らないようなブレーキングをするのがベストかもしれませんが…。
ABS付きの車の運転方法は、いつかドラテク編に書く予定です。

そして始めの出題に、「2輪駆動を前提とする」と書きましたが、これにも理由が有ります。
4輪駆動の車には、センターデフが付いており、その中には電子制御で、ブレーキング時にセンターデフをロックさせる物があるからです。
具体的には、ランエボZ以降や、インプレッサのGDB-C型以降などです。
これらはブレーキング時センターデフがロックするので、ブレーキング時に前輪と後輪の回転差が出にくくなります。
仮に、100%ロックさせられれば(つまり全くデフが滑らなければ)、前輪と後輪の回転差は存在しない事になりますね。
これは、ABSの話を除けば、4輪同時にロックさせられる最適なブレーキシステムになることになります。
実際に、これらの車のブレーキは、車重を考えれば強烈に効きます。

よって、一部の4輪駆動の車は、少しブレーキチューニングの事情が違うのです。
極端な面白い話をしてみると、もしも前後に減速時にも効く2WAYのLSDが付いていて、ロック率の高いセンターデフが付いていれば、ブレーキは4輪のうち、一つだけ付いていれば4輪の全てに制動力が働くことになりますね。

とりあえず、ABSの話はこの辺にしておきます。 ABSが付いている車に乗っている人は、参考にしてください。


さて、 サスペンションを固めると制動距離が延びる話に戻りますが、これはやはり多くの人が感じているようですね。
そして、それに対する対処法として、ブレーキ系は変更せずに、「フロントタイヤを太くする」という選択をする人がいるようですね。 (もちろん、それだけが目的ではない場合もありますが)
確かにこれは簡単で、効き目が有ります。 しかしこのやり方は、私はあまり綺麗なやり方ではないと考えています。
まあ、今までの説明を読めば当たり前ですね。

ここはブレーキのコーナーなので詳しくは書きませんが、操舵輪を太くすると言うのは、操縦性の観点から考えてもデメリットが沢山有ります。

実際に、最近のスポーツモデルの後輪駆動車では、前後で違うサイズのタイヤを純正で設定している物が増えていますね。特に、ミッドシップや、フロントミッドシップでしょうか。
例えば、 S2000、NSX、MR-S、Z33、RX-7、4駆だとR35GT-R等ですね。

私は、メーカーがタイヤのローテーションが出来ない等のコストを度外視してまで、前後で違うサイズを用意したのには、必ず意味が有ると思っています。
きっとメーカーが、車高を下げて足を固めた車を開発しても、純正同様に前後で違うタイヤサイズにしてくるでしょう。
つまり、後輪のブレーキ配分を増やして来ると思います。

最近、車高調などを入れた車で時々見かけるのが、フロントタイヤを太くして、フロントブレーキのキャパが足りなくなり、フロントだけローターやキャリパーを変えている車です。
まあこれらは、ブレーキのコントロール性や、耐フェード性、耐久性などを上げるメリットもありますが、基本的にマスターシリンダーのブレーキバランスがそのままでは、よりフロント寄り、前効きのブレーキになるはずです。リアタイヤは、グリップを持て余して遊んでいる訳です。
更にリアにGTウィングを付けて、ダウンフォースで後輪のグリップが上がっている車では、より一層後輪でブレーキを効かせる事が出来るはずです。

これはもったいないですね。

仮にフロントのブレーキだけで十分に止まるようになったとしても、フロントタイヤを極端に太くして、フロントだけで制動を行うのは、フロントのアームやブッシュなど、色んな所に、メーカーが想定外の負荷が掛かるはずです。(例えば、S2000だとフロントのアッパーアームの取り付け部が剥離するのが有名な症状。)
よって、今度はそこを補強する必要が出てくるなど、お金が掛かるチューニングスパイラルにハマって行きます。

私はおそらくこれからは、サスペンションを固めた車では、後輪のブレーキを強化していくトレンドになって行くのではないかと予想しています。



さーて、長く続いた制動距離を縮める、ブレーキチューニングについてのお話。 とりあえずは、こんな感じですかね。
少しは役に立ちましたか??(笑)

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